再登板半年 “アベノミクス”頼みの「戦略」綱渡り

 

2013年6月25日(火) 西日本新聞

 

 首相答弁は自信満々たった。24日の衆院本会議。主要国首脳会議(G8サミット)に関する質疑で、安倍晋三は自身の経済政策アベノミクスが「各国から高い評価を得た」と強調。「次元の違うスピード感で実施に移す」と宣言した。強気を支えるのは前日投開票された東京都議選の結果。自民は59人、公明23人が全員当選した。官房長官の菅義偉は会見で「これ以上ない結果」と喜色を浮かべた。

 都議選で、安倍は応援演説の大半を経済に費やした。「日本を覆っていた重苦しい雰囲気は一変した」。1~3月期4・1%の実質経済成長率を引き合いに、成長戦略のメニューも次々と並べた。「5年で40万人分の保育所を造る」

 「1人当たりの国民総所得を150万円以上増やす」

 勢いづく自民。「国民が切実に期待しているのは経済政策だ」。幹事長の石破茂は、参院選もアベノミクスで挑み、衆参のねじれ解消を狙う。

 
 アベノミクスで劇的効果を上げた第1の矢の「大胆な金融緩和」。その仕掛け人とされるのが、衆院福岡10区選出の旧大蔵官僚山本幸三だ。安倍を「日本を沈没から救った救世主」とたたえる。

 「経済の安倍でカムバックするしかない」。こう口説いたのは2年前。山本の日銀改革論に賛同者はなく、安倍は第1次政権退陣の失意を引きずっていた。2人は安倍を会長に議員連盟を設立。エール大名誉教授の浜田宏一ら金融の専門家を招き、月1、2回の勉強会を重ねた。

 デフレ不況まっただ中。山本は、日銀から大量の資金を市場に流し、インフレに導くよう議連で主張。安倍は「よく勉強し、理論を身に付けた」。総裁選出馬を控えた昨年夏、山本に「インフレ目標を公約に入れる」と約束した。

 首相に就任した安倍は、強引に日銀総裁を差し替え。資金供給を2年で2倍にする「異次元緩和」で円安、株高をもたらした。同時に市場が乱高下する副作用も。「強気と弱気がバランスを取りながら上がるのが健全」。山本は意に介さない。

 「成長あって健康なしでいいのか」「農業がほとんど入っていないのはおかしい」

 第3の矢の「成長戦略」素案が決まった5日。自民党の規制改革検討委員会に不満の声が渦巻いていた。医薬品のネット販売解禁は、高齢者の利用や安全性に課題を残す。安倍肝いりの「3年間抱っこし放題」も、「職場復帰が難しくなる」と、肝心の女性に不人気だった。第2の矢「機動的な財政出動」の柱は公共事業の大盤振る舞い。効果は限定的だ。アベノミクスの今後の成否は、成長戦略が握る。

 「秋から暮れにかけ、もう少し良くなる」。テレビ番組で景気回復が実感できる時期を問われ、安倍はこう答えた。実体経済の改善が先か、アベノミクス破綻が先か。高支持率の裏で、綱渡りにも似た経済政策が続く=敬称略

(浜田直文)