[東京 8日 ロイター] – 「アベノミクス」の仕掛け人である自民党の山本幸三衆議院議員は8日、ロイターのインタビューに応じ、日銀が掲げる「2%の物価安定目標」の達成を確実にするために、追加緩和を行った方がよいと述べた。放置すれば、目標達成時期は2016年度中に後ずれしかねないとも指摘。デフレ脱却に向け、早めの対応を促した。2015年10月に予定される消費税率10%への引き上げについても、2017年4月に1年半先送りすべきだと提言した。
<金融政策・消費増税判断、景気状況を憂慮し方向転換>
山本氏は6月のロイターのインタビューでは、追加緩和には否定的で、消費税再増税についても予定通り実施すべきと主張していた。方針転換の背景について、山本氏は最近の経済指標の悪化を挙げ、特に円安が進行したにもかかわらず輸出が伸び悩んでいることが「最大の誤算だった」と指摘。4月の消費税率引き上げの悪影響だけが残り、実質賃金マイナスの重さが家計にのしかかっているとした。「極めて憂慮すべき事態だ」と述べ、「180度方向転換せざるを得ないと判断した」と語った。
<緩和時期・手法は日銀の専管事項、10月展望リポートは重要な判断材料>
そのうえで山本氏は「金融政策もこの事態を早く認識し、早め早めに対応した方がよい」と語り、2%の物価安定目標の達成を確実にするために「追加緩和をしたほうが良い」と述べた。
物価安定目標達の成時期について、山本氏は6月には「来年末ごろには確実に達成する」と見通していたが、「今のままだと2%達成時期は後ずれし、2016年度中に安定的に達成できるかが問われる状況になっている」と述べ、追加緩和の必要性に言及した。
時期や手法は「日銀の専管事項」としたが、2016年度までの物価見通しと成長率見通しを盛り込んだ「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」(10月31日公表)は「重要な判断材料になる」と語った。
<110円━120円の円安進行「自然」、経済全体にはプラス>
一方で、追加緩和は円安を助長しかねない「両刃の剣」でもある。円安による経済への影響はプラス・マイナス両面があるが、米国の利上げ観測と日本でくすぶる追加緩和観測による金利差拡大を材料に、1ドル110円台まで急速に円安が進行すると、財界からは「さらなる円安は日本全体にとって好ましくない」(経団連会長)などと懸念する声も聞こえ始めた。
日本の産業構造上、円安は輸出を中心に経済全体では「プラスだ」とし、「デフレ脱却で動いている以上、嫌だといっても円安は進む」と語った。ドル・円相場の先行きについては「リーマン・ショック前には120円程度だったことを考えれば、110円から120円程度の円安が進んでもおかしくない」と見通した。ただ、「短期間にどんどん(円安に)行くのは好ましくない」とも語り、急激な変動は好ましくないとの認識を示した。
<消費税率10%への引き上げ、1年半先延ばしを>
消費税率再引き上げの決定は、消費者マインドをさらに低下させるリスクがあるとし、「このままいくと景気は腰折れし、アベノミクスがつぶれてしまう」と警告。消費税の再引き上げは1年半先送りし、2017年4月からとするのが望ましいと語った。
先送り期間を1年半とする理由として、山本氏は「2%の物価上昇が安定的となり、実質賃金がプラスの領域に入ると見込める」ことや、事業者にとっては年度途中の10月開始より年度初めの4月が好ましいという事情を挙げた。
増税先送りに伴う法改正の手続きなど困難な事態も予想されるが、山本氏は「アベノミクスがつぶれるのが大変か、そういうこと(法改正)をやるのが大変かの選択だ」と語り、経済の腰折れを回避することが優先されるべきだと強調した。
また、消費増税分の増収が充当される予定の社会保障充実財源には、14年度補正予算の財源に4─5兆円は用意できる見通しだとして、その転用で対応は可能だと見通した。
山本氏は10月下旬に自身が会長を務める「デフレ脱却議連」を再開し、経済状況を客観分析し、必要なら提言をまとめる考えを明らかにした。