安倍晋三首相が18日夜の記者会見で、消費税再増税の延期と21日の衆院解散を正式に表明したことで、与野党各党は一気に“選挙モード”に突入した。
首相が衆院解散を正式表明したことを受け、自民党は挙党態勢の構築を急ピッチで進めることが迫られる。首相が設定した勝敗ラインは「自公で過半数」という決して高くないハードルだった。今後いかに党内を引き締め、結党50年を迎えた公明党と連携を密にするかも課題といえる。
◆谷垣氏の進言受けて
「大変力強い提言をいただいた」。首相は18日、消費税再増税の1年半延期を柱にした提言を首相官邸に持参した自民党の山本幸三衆院議員ら「アベノミクスを成功させる会」のメンバーに、そうねぎらいの言葉をかけた。首相は、山本氏の説明に耳を傾けながら提言の中にあった「経済対策の実施」の部分に線を引いた。そして、「デフレ脱却、経済再生と財政再建の二兎(にと)を追って解決する必要がある。提言を出してもらい、大変うれしい」と語りかけ、財務省出身の首相秘書官の方を見て「財務省はどう言うか知らないけどね」とちゃかしてみせた。
首相は、よほど機嫌を良くしたのか、自ら議員一人一人と記念撮影に応じるサービスぶり。自らが進めてきた経済政策について国民に信を問う首相にとって、「成功させる会」の存在は心強かったに違いない。
野党各党が解散について「大義がない」と言い張る中で、アベノミクスを問う意義をいかに世論に浸透させるかがカギを握る。
「政治生命を懸けて国民に問いたいという燃えるような思いがなければだめです。そこに一点の曇りがあるなら解散すべきではありません」
谷垣禎一幹事長は18日夜、都内で記者団に、首相にそう進言していたことを明らかにした。首相に「解散というのは大義名分が必要です。大義名分は他人が作れるものではない。首相自らがお作りになるものです」とも語ったという。
◆公明との連携も腐心
首相は谷垣氏の意見にも耳を傾けた上で衆院選に踏み切った。議長を含めると自民党の現有議席は295、公明党は31で計326議席に上る。次期衆院選は定数5減により過半数は238議席で、自公過半数割れまで89議席もある。
与党関係者は「(勝敗ラインは)本音は現有議席維持だろうが、選挙は何があるか分からない」と指摘。低い目標は世論の風向きを読み切れず予防線を張ったとの見方も出ている。
自民党は政権の「ブレーキ役」を自負する公明党といかに連携していくかも腐心しそうだ。首相は18日、記者会見に先立ち山口那津男代表と官邸で会談した。山口氏は消費税率10%への再引き上げと同時に軽減税率を導入するよう求めた。
集団的自衛権の行使容認をめぐって、首相サイドに譲ったとの意識が強い党執行部には「軽減税率は何としても勝ち取りたい」(幹部)との思いが強い。軽減税率の導入要請に対し、首相は「承っておきます」と述べるにとどめた。
その言いぶりには、結党50年の節目を迎え、いまだ自民党の「げたの雪」と揶揄(やゆ)される現状を打破したい山口氏との微妙な距離感がにじんでいた。