2015年12月3日発売 リベラルタイム
(以下、本文)
外国人観光客は二〇一五年には二千万人となる。
そのため政府は、二〇二〇年までの訪日観光客数の目標を引き上げようとしているが、
日本の観光業界には人材不足や財源不足等といった課題が山積している
日本経済の最大の問題は、国内消費が落ち込んだまま回復しないことです。消費税率の引き上げをすると、消費は一年程度で戻ってきますが、今回の五%→八%への引き上げでは戻るどころか消費は一年半経過しても、低迷したままです。大きな原因は消費税引き上げに加え、日本銀行が金融緩和をしたことによって起こった、円安による物価の上昇です。特に年金生活者や低所得者は生活が厳しくなってしまっています。ではどうすればいいのか。考えられるのは所得の再配分です。そして、並行して金融緩和もしていく必要があると思っています。
一方、中国人観光客の〝爆買い〞効果等で日本経済が少し潤いましたが、その最大の要因はビザの緩和と免税制度です。日本の免税は世界一使いやすい制度で、通常、諸外国では空港で手続きをしなければいけないところ、日本は各免税店で行えます。それによって、ブランド品等を購入したい中国人を中心とした外国人観光客が増加しています。日本経済が落ち込んでいるいま、景気浮揚効果が見込まれる観光分野には、政府はもっと力をいれるべきだと思っています。
そこで必要なのが、持続的な観光政策です。リピーターを増やすということです。外国人観光客に買い物だけでなく、文化財や歴史、伝統等、そういったところに興味を持って頂く。
訪日観光客の中でも、歴史・文化を尊ぶ人が多いヨーロッパから来る人は、アジア圏からの観光客に比べ圧倒的に少ない。ヨーロッパから人を呼ぶために欠かせないのが、神社仏閣等といった歴史・文化の魅力拡大です。
外国人観光客数三千万人突破に向けて、歴史・文化へのアプローチ等、政府がやらなくてはならないことはたくさんありますが、特に観光産業分野の人材育成は重要です。
先日、流通経済大学で行われた日本国際観光学会の全国大会に行き、苦言を呈してきたのですが、日本には四十二の観光学科を有する大学があるにも関わらず、観光業界に合った多数の人材を育成できていません。観光学科を卒業しても、約一七%しか観光産業に就職していないのです。日本の教育はアメリカと比べると実践的でないのがその理由です。米大学の観光学科、ホスピタリティ産業の教育というのはまず、財務諸表をきちんと読めるようにして、統計学を駆使して分析することができるように教育します。
そして、マーケティング能力やコミュニケーション能力等を教えた上で、観光学科で教えるような観光分野、ホテル、飲食業の知識等を教えていくわけです。日本の観光学科で統計学を教えている大学がどれほどあるでしょうか。いまでは、日本より後に観光学科をつくった中国や台湾に人材輩出で抜かれてしまいました。
中国ではアメリカ資本のホテルができてから観光学教育が変化しました。アメリカ系のホスピタリティ施設と提携した学校が誕生し、全部英語のアメリカ式カリキュラムで取り組んでおり、人材育成に成功しました。観光産業成功の根幹は人材です。なので、しっかりと人材育成をしていかなくては持続的な観光政策は難しいのです。ただし、持続的な人材育成だけで十分かといえばそうではありません。観光産業を拡大するには利益を上げる必要があります。そのためには、ガイドはボランティアでなく有料とし、神社仏閣の入館料も高額にすることが求められてくるのです。日本には、歴史・文化の資源が地方にたくさんあるので、それを活かすことが一番いいと思っています。
訪日一回目は東京、大阪、京都といったゴールデンルートに足を運んでもらうことになると思いますが、その後リピーターになって頂き、次に来て頂いた際は地方にも足を運んで頂く。そのためには、地方空港やクルーザーの港湾整備等を進めなくてはなりません。その際、港や空港に着いたが、一度に入国審査ができないので船内や機内で待機していて下さい、といったことではいけません。そのためにCIQ(税関・出入国管理・検疫)を迅速に行えるようにする。大型客船ではあらかじめ船内で済ませておくことが大切になってきます。
また、外国人の有料観光地ガイド、通訳案内士の試験には、一般教養等もあります。難しい資格を取得する必要があるのですが、地方の外国人有料ガイドはそこの話ができればいいわけです。なので、〝地方ガイドライセンス〞というような、簡単に取得できる資格を用意し、高齢者等がガイドとなって現地の人ならではの話をしてあげる。そうすることで地方活性化にもつながりますし、ガイド料や入場料も取れるようになるのです。これまで、神社仏閣は無料同然で観覧できる代わりに説明はしない、といった姿勢でしたが、それではいけないのです。
また、アクセスやガイドに付随して重要なのが、宿泊先です。いま、大量の外国人ツアー客の訪日によってホテルや旅館が不足しています。私は民泊を推めようとしていますが、旅館業法違反だという旅館業界の反発もありますので、今後も話し合っていく必要があります。規制緩和できるところは緩和していかなくてはならないと思っています。
観光は伸び代があり、世界レベルでみれば観光収入でGDP(名目国内総生産)比をいまの二倍にすることも可能です。しかし、何をするにも財源が必要になってくる。そこで、外国人限定の宿泊税を取るべきだと思っています。来たいと思っている人は、少しくらい税がかかっても訪日します。アメリカやヨーロッパも宿泊税は取っています。それを地方財源として活用できれば可能性は大きく広がります。
都内ではすでに宿泊税を取っていますが、宿泊者全員に対してなので、日本人も含みます。そして、かかる金額は一人一泊あたりの金額で、一万円以下は課税なし、一万円以上〜一万五千円未満で百円、一万五千円以上で二百円です。しかし、外国人観光客に対する宿泊税にしては少なすぎます。例えば「宿泊料の一%」等と基準をつくるだけでも大分違います。観光庁の予算は現状では韓国の十分の一程度。何ができるのかと感じます。財源確保は急務です。
他に、「観光産業は伸び代があるから出資してもいい」という投資家の方もいますので、そこで、地方銀行とタイアップして観光業団体等がファンドを立ち上げ、海外の投資家も含めてお金を集めていく、というやり方もあります。そして観光産業やホテル等に投資してもらうことによって、インフラ整備や施設の設備投資ができます。そういった財源を得る仕組みをつくり、整備を進めることが大切です。
先日、『新・観光立国論』を出版されたデービット・アトキンソン氏も仰っていますが、日本には一泊四百万円くらいの超高級ホテルがありません。そして、そういった超高級ホテルにIR(統合型リゾート)といった国際レベルのリゾート施設やコンベンションセンターが併設されることによって、世界的な各種イベントを呼び込み易いのです。それが世界のやり方です。法整備等やり方は十分に検討する必要がありますが、IRというのは大きな投資が生まれますし、地域活性化における大きな力になると思っています。
一方で、日本の観光業界は非正規雇用が多く、持続的な経営ができていないという問題があります。
一番は休日時期の絡みで営業の緩急が激しいことです。ゴールデンウィークやシルバーウィークといった大型連休は忙しいけどそれ以外はそうでもない、といったことです。そうすると、安定的な経営ができないために正規雇用の社員を採ることが難しくなる。すると、熟練者が少なくなり生産性の低下に繋がります。なので、例えば地域ごとに大型連休をずらすといったこと等、対策を考えなくてはなりません。
旅行は家族皆で行く方がほとんどです。大人は有給休暇を使えますが、子供にはありません。なので、旅行を考える上で一番大事なのは〝子供が休みかどうか〞です。学校の休日を上手にをばらけさせることができれば、観光業界の雇用問題の解消や生産性の向上になるのではないかと思っています。
なにより、観光産業において国内旅行は基礎です。二〇一四年度の観光庁の調査(下段グラフ参照)では、「日本人国内宿泊旅行」の消費額は全体の約六四%を占めており、次に「日本人国内日帰り旅行」が約二〇%を占めています。このように、日本人による国内旅行消費が八割以上を占めているので、いかに日本人に国内を旅行してもらうかも大事になってくるわけです。
今後、休日の問題についてはしっかりと文部科学省と話をしていきます。人材育成や財源の確保、ファンド、民泊やビザ等の規制緩和について、真摯に取り組んでいきたいと思います。
(談・文責編集部)