インフレ・ターゲット導入の上で解除を!(2006.2.27)(金融ファクシミリ新聞社)

 

(金融ファクシミリ新聞社 平成18年2月27日号)

インフレ・ターゲット導入の上で解除を!

――先日発表された十二月の消費者物価指数(CPI)で、生鮮食品を除く総合指数は前年同月比0.1%のプラスとなっていたが、これで金融政策を変更するのは少し早いのではないか?

山本 おっしゃる通りだ。CPIの上方バイアスは0.3%程度はあると言われており、また、ちょうど今は基準年から一番離れたところにあり、このバイアスが一番大きいはずだ。確かにこの一月~二月は、0.3~0.4%になりやすいと言われているということもあるが、それでも0.3という数値は、このバイアスを勘案すると、まだマイナスの可能性もある訳だ。加えて、今回のCPI指数の中で上がっているのは原油だが、このまま原油価格が十年~二十年上がり続けるということはないだろう。さらに四月からは、診療報酬も下がり、年金も減額される。

――マーケットでは四月二十八日が日銀の量的金融緩和解除発表の有力な候補日とされているが…。

山本 一番いいデーターがきた後に発表するということであろうが、八月のCPIはまた下がるであろう。

――八月からは新消費者物価指数が公表されることになるが、その影響ということか?

山本 前回もそうだったが0.3%程の下げは予想されるだろう。今までの上げが、その瞬間に下げてしまう可能性はある。

――日銀の中では、今後もゼロ金利を続けるため、量的緩和解除というよりソフトランディングという意味で、当座預金残高を下げるだけならば良いという意見もある。

山本 そうは言ってもそれをやってしまったら、その期待感だけで金利が上がってしまう。今、短中期金利が上がり始めたが、それは円高となる要因であり、外資が日本株投資からお金を引き揚げるきっかけになり得る。実際、その兆しがすでに見え始めてきている。

――株ももう少し上がってほしいものだ…。

山本 本来、大恐慌でも昭和恐慌でもそうだが、資産価格にまず響いてくる。量的緩和で市場に放出してきたお金がようやくアセットバランス効果を出し始め、流れ出てきた。そこを大事にしなくてはならない。

――ようやく株や土地の薄価損がなくなり、これからやっと何かが出来そうだという大切な時期だ。

山本 米国が日本の失敗から学んだことは、バブルに対しては何もしてはいけないということだった。放っておけば自然とソフトランディングしていく。もし、あまりに急激に落ちた時は、逆に一気に金融緩和をしてデフレにならないようにするということを勉強した。

――日本はバブル当時、思い切り金利を上げた。

山本 それだけじゃなく、通貨の量も絞り、税率も上げて、考え得るすべての施策を施し、一気にバブルを潰した。

――対して、FRBは徐々に金利を上げソフトランディングさせつつある。

山本 しかし、それはバブルのためにやっている訳ではない。中央銀行というものは一般物価基準に対して施策を打つだけであり、バブルは放っておけというのが世界の確立した金融政策だ。

――今の日本でも、再びバブルになりつつあるという見方もある。

山本 我々は自民党金融政策小委員会の中で土地バブルかどうかという議論をしたが、都心の収益率の見方と、リスクプレミアムが下がってきたところから割り出した価格をみれば、その価格はしごく当然の数字であり、全くバブルということはない。

――地方の土地価格は、むしろ下がっているような状況であり、この状態で金利を上げるとなれば、さらに価格は下がっていくだろう。

山本 そこに加えて注意しなくてはならないことは、景気がこの二月~三月でピークにきているということだ。そこから先は、むしろ下押しリスクが高いと思う。今回の実体経済が良くなってきたのは輸出の回復に依るものだ。米国経済が非常に強かったことと、中国特需があり、そのお陰で、本来オールドエコノミーである鉄鋼などといった輸出関連企業が伸びて、設備投資が増えた。同時にリストラを激しく実施し収益が伸びた。これを元にした潤沢な資金が株や土地に流れ、それによって所得が安定し消費が増えてきた。これを米国経済に置き換えると、先日のバーナンキFRB議長の話から伺えることは、住宅に関しては非常に心配している。彼の証言では、その調整は緩やかに行われるから大丈夫だ、と言ってはいたが、私は、その本音のところは、一気にバーストが起こりかねないという不安を持っているなと感じた。

――住宅バブルの崩壊は米国でも頭の痛い問題だ。

山本 それに加え、経常収支は相変わらず大幅赤字だ。さらに、インフレのプレッシャーが実体経済の中にあることからドル暴落の可能性も出てきている。そこで、日本の頼みの輸出が落ち込み出すとなれば、日本の実体経済についてはむしろ心配するような状況になってきているのではないか。株価のPERから見ても、他の海外のマーケットと比べると、今はちょうどいい状態だが、これ以上は高いと見なされるような水準になりつつあり、海外投資家も落ち込みだす。また、個人の信用取引で盛んに行われているネットトレーディングにおいては、証券会社のお金を安く借りられるからやっていた訳であり、もしも金利が上がってしまえば、反対に一気に売りが出てくるだろう。また、ある人はIT関係が良くなってきたと言っているが、ITには二種類あり、部品部門のサイクルは二年といわれ、この三月をピークに徐々に下がっていき調整が行われるという話もある。通常、歴史的に見てマネーサプライが4.4%以下になるとデフレになると言われているが、こういった現在の状況においてはマネーサプライはそれ以上にならなければ危ないだろう。

――確かに、量的緩和でこれだけお金がじゃぶじゃぶ状態なのにマネーサプライが1.8%や2パーセントというのはおかしい。

山本 これから動き出そうという時に短期金利を上げれば、円高となり、株は調整する。良いことはないだろう。

――量的緩和をいつまで続けたら良いと…。

山本 とにかく私は、新消費者物価指数改定のある八月までは様子を見た方がいいと思う。改定後の数値がプラス0.3%や、GDPデフレーターが0%に近い状態であるということを確認したうえで、インフレターゲットを入れた形で実施するのであればいいだろうと思っている。バーナンキ議長は先日の質疑で政策の透明性の重要さを強調した。FRBがインフレターゲットを導入すれば、日銀もやらざるを得なくなるだろう。

――インフレターゲットを導入するには、やはり日銀総裁の首をかけての決断が必要になるだろう。

山本 もちろんその説明責任を負うことにはなるが、そこで予期せぬ事が起きたとしても、すべて責任を問うというようなものではない。運用は柔軟にやれば良い。まずは、ソフトでフレキシブルな形のインフレターゲットを設定すること。それなしに量的緩和などとんでもないと考えている。

――この点、日銀側としては為替介入権を持っていないことでインフレターゲットを導入することは難しいという声もあるが…。

山本 為替介入権については他の国でも中央銀行は持っていない。

――しかし、他の国は、日本の財務省のようにあんなに大量の円安誘導を行うようなことはしない。

山本 私は財務省があの円安誘導を施したからこそ流動性の供給が増えたと思っている。あれがなかったら日本経済はここまで盛り返さなかっただろう。むしろ感謝すべきではないか。

――最後に、日銀はいつごろの量的緩和解除を予定しているのか。

山本 四月はやりたいと思っているだろう。上手くいけば三月という考えもあるのではないか。とにかくインフレターゲットを導入したうえでの金融政策の変更を希望している。(了)