朝日新聞(平成17年12月19日記事) 「与党と日銀、論争激化」 1年間下がり続けてきた三井住友銀行の住宅ローン金利(住宅金融公庫と提携、35年固定)は、7月の2.59%を底に反転し、11月は2.85%に上昇した。2千万円を借りた場合、総返済額は100万円以上増える計算だ。 景気が回復して物価が上昇に転じる見通し強まり、日本銀行の量的緩和政策が来春にも解除されるとの観測が市場に広がって、長期金利が上昇し始めたためだ。 「ゼロ金利解除の失敗を、繰り返すのか」。15日に自民党本部で開かれた「金融政策に関する小委員会」の初会合。出席した議員からは、日銀への批判が相次いだ。 出席した日銀幹部は「量的緩和解除で、大きな変化は起きない」と説明したが、「デフレ脱却への積極姿勢が見えない」といった厳しい意見が相次いだ。会合後、山本幸三委員長は、「今日はまだジャブの応酬だ」とし、名目成長率の目標を政府と日銀が共有すべきだと主張した。 01年3月に日銀が導入した量的緩和政策は、大量の資金供給によってデフレ脱却と景気回復を後押しする狙いだ。日銀は経済環境の好転を受け、今夏ごろから、この政策の終わりが見えてきたとのサインを市場に送り始めた。 「量的緩和政策は、デフレスパイラルの危機を脱出するための非常手段として採用した。こんな異常なものはいつまでも続けられない」 11月11日、都内で講演した日銀の福井俊彦総裁はこう言い切った。それまで政府側からの大きな反発は見えず、「解除に向けた地ならし」は順調との認識が、日銀内に広がっていた。 しかし、自民党の中川秀直政調会長は、2日後、「日銀の政策目標は常に政権と合致させていく必要がある。それが分からなければ、日銀法改正も視野に入れなければならない」と攻撃した。 望ましい物価上昇率を目指す金融政策を義務づける「インフレ目標」導入を日銀に求めてきた山本氏と、中川氏が面談。山本氏は、中川氏から小委員会設立と議論の方向性を指示されたという。 その後、竹中総務相も、「(政府と)成果目標をしっかり立てていただく」と中川氏の考えに同調。両氏が日銀批判を強めた11月半ば以降、市場は日銀の「劣勢」を読んでか、長期金利は下げ基調に転じた。三井住友銀行の12月の住宅ローン金利は2.75%に下がった。 論争の背景には、来年9月に総裁任期を終える小泉首相の後継争いの構図も浮かぶ。11月には早期の消費税増税を主張する谷垣財務相らに対し、中川・竹中両氏は「財政再建には歳出カットが先決」と口をそろえた。 政府内でも「消費税に続き、金融政策も政争の具にされている」との声が漏れる。だが、日銀のある幹部は「政府・与党との対立は、日銀自らが招いた面もある」と認める。量的緩和政策の効果の点検や、デフレ脱却の定義などが不明確なため、解除の是非や時期を巡る議論が空振りしている、との見方だ。 政治圧力をかわし、国民への説明責任をどう果たすか。量的緩和政策解除の戦略について、日銀内に動きが見える。 「透明性を上げるという意味では、望ましい物価上昇水準を公表するのはプラスの効果があると思う」 日銀の春英彦審議委員は7日の記者会見でこう述べた。岩田一政副総裁と中原真審議委員は以前からこれに近い考え方で、武藤敏郎副総裁も最近、「検討の対象」との考えを示した。政策委員9人のうち、4人が前向きともとれる。 日銀は「消費者物価指数(生鮮食品を除く)が安定的にゼロ%以上になるまで」量的緩和政策を続けると公約した。解除後、そうした縛りがなくなれば、日銀が早期の利上げに進むと市場が予測し、中長期の金利も上昇する可能性がある。それを封じるには政策運営の「目安」を示した方がいいとの考え方だ。 ただ、「政策の機動性が失われる」との懸念が日銀内にある一方、経済学者の間には「達成できなかった場合の説明責任を負わないと実効性がない」との指摘もある。 来春とみられる5年ぶりの政策変更を巡る議論は、始まったばかりだ。 |