大胆な土地税制改正で資産デフレ解消へ (2003.1.26)(TKC出版)

平成15年1月26日

■TKC全国政経研究会 篠澤忠彦会長・高田順三幹事長代理との懇談(TKC出版 全国政経研究活動に掲載)

大胆な土地税制改正で資産デフレ解消へ

設備投資減税、相続税、贈与税の一本化、株式市場の活性化策、土地流動化策、消費税改正などを盛り込んだ「平成15年度税制改正案」が1月からの国会で審議されている。平成14年12月26日TKC全国政経研究会は、山本幸三衆院財務金融委員会委員と税制改正、デフレ対策について懇談を行った。

固定資産税の負担軽減で地価を上昇させる

篠澤 「平成15年度税制改正大綱」、そして来年度予算が固まり、あとは国会審議を待つだけとなりました。山本先生には、中小企業税制を中心に今回の税制改正についてお伺いしたいと思います。

山本 税制のプロ的な立場から見ると、興味深い改正が含まれており、思い切った政策を打ち出した面はあります。しかし、経済全体の大きな流れであるデフレ対策税制かというと、物足りない面も多いと評価しています。

高田 法人関連税制において投資減税の拡充、創設がなされましたね。

山本 法人の7割が赤字では、景気対策として、法人税減税は効果が期待できません。むしろ、投資へのインセンティブを与えるほうが、景気対策として有効だと思います。

高田 デフレ対策の大きな柱は、土地の流動化と証券市場の活性化ですね。

山本 証券税制については、配当、譲渡益の申告不要制度と10%の優遇税率の導入など、証券投資への意欲を喚起するものとして非常に高く評価しています。

篠澤 証券税制の改正は非常に良かったのですが、市場が反応しなかったのは、わが国経済の先行き不透明感によるものと思われます。

山本 土地税制のほうが、資産デフレ解消に向けた抜本改正とまではいきませんでした。デフレ対策の重要なポイントは固定資産税です。固定資産税の負担を軽減し、流通課税を大幅に引き下げるなど思い切ったことをしないと、資産デフレは解消しません。

固定資産税の減税には、総務省、地方自治体からの反対の声が上がります。固定資産税は地方財源の52%を占める基幹税制ですから、それを減らされると困るというわけですが、これには誤解があります。

固定資産税の税収の減少の理由は、地価下落にあります。地価下落の要因は、94年頃から固定資産税評価額を公示地価の7割程度までに段階的に引き上げているためです。そのため固定資産税の負担が上がっているのです。

地価は、その土地から得られる収益、すなわち期待収入の割引現在価値で決まります。これは基本原則です。固定資産税は毎年納めるものですから、固定資産税の税収分だけ地代が少なくなります。つまりその分だけ将来収益が減り、その結果、地価が下がり続けているのです。

いずれにしろ、固定資産税と地価は直結していて、固定資産税の税収が減少するのは、固定資産税の負担水準を引き上げてきたからだということを、しっかり押さえておかなければなりません。

いま必要なことは、固定資産税の負担水準を引き下げて、地価を上げる。そうすれば固定資産税の税収もあがります。

高田 当会でも、土地取得後の地価下落リスクを考慮して、土地取得者への投資税額控除制度を提言しておりますが、そのような大胆さが必要なのかもしれません。

山本 そうです。それと金融資産全体での損益通算も必要でしょうね。

篠澤 不動産関係では登録免除税、不動産取得税の軽減とともに、新増設に係る事業所税の廃止がありますが、これは新増設の祭に一気に課税されるので、みんな怖気づいていました。廃止は良かったと思います。

高田 投資減税には、IT投資促進税制の創設のほか、中小企業について小額減価償却資産の取得価格基準の30万円未満(現行10万円未満)への引き上げがありますが、これは当会からも強く提言させていただきました。

篠澤 このニュースを聞いて、中小企業の社長は少し明るい気持ちになりました。

平成14年度補正予算で資金繰り支援保証制度導入

高田 もう一つ大きな問題は、中小企業の資金繰りです。これについては、特別融資保証の借入残高の返済期間の大幅延長を認める超長期資金繰り対策を提言しましたが、これが補正予算で中小企業資金繰り支援保証制度として実現しました。

信用保証制度を利用して複数の金融機関から融資を受けている場合、借入金を一本化し返済期限を延長できる制度で、支払い負担が軽減できます。

篠澤 中小企業税制では、消費税の免除点の引き下げ(現行3千万円から1千万円)簡易課税制度の適用上限の引き下げ(現行2億円から5千万円)がありますね。

山本 益税の解消など、消費税に絡む不公平感の払拭は、私どもも一貫して主張してきました。中小零細企業には、帳簿類をきちんと整備していただくことになりますが、それが商売をされる方の本来の姿ではないでしょうか。これには、自民党の税制調査会でも「筋論としてそうだ」という方が増えており、さすが党税調だという気がしましたね。

篠澤 簡易課税制度は、創設の経緯からもそろそろ廃止していいのではないでしょうか。毎日きちんと帳簿をつけたほうが、中小企業にとってもメリットが大きいのです。

高田 今回、私どもがかねてから提言しておりました消費税の毎月納付も年税額4千8百万円超の事業者を対象に導入されます。

山本 消費税については非常に前進したと思います。貴会は、いわゆる減税だけを求めている団体ではなく、良識の府であると思っています。皆さんの提言は、私どもの理論的支柱になっています。

今回の税制改正で、投資減税や相続税、贈与税の一本化などを実施しますが、まだかってのインフレ時代の法律が残っています。デフレに対応した改正を当分の間大胆に進めていく必要があります。

それと日銀総裁人事がキーポイントになります。インフレ・ターゲット導入を含めたデフレ対策を実行できる方を期待しています。今回、投資減税の方向を打ち出しましたが、本来の筋である法人税の軽減を中期的な課題として検討せねばなりません。これはわが国産業の国際競争力強化のために必要です。