物価水準目標の導入を柱とする日銀法改正案を検討している、自民党の「金融と物価に関するワーキングチーム」事務局長の山本幸三代議士は、テレレートニュースのインタビューで、「毎年15%以上のマネタリーベースの伸び率を続ければ、2年間程度でデフレ解消の動きができる」との見方を示した。そのうえで、日銀は、今年の9月にさらなる量的緩和を講じるべきとの考えを示した。さらに日銀に対しては「(市場に)信用されていない」と指摘。デフレ解消の決意表明で市場の信認を回復するため、インフレ・ターゲット導入の必要性を改めて強調した。さらに、物価目標達成の政策手段がない、とする日銀に対し、「それを探し出すのが仕事だ」と批判。効果的な政策手段がある以上、必要に応じて法律を変える用意があることを訴えた。 ●昨年3月の決定はゼロ金利解除前に戻っただけ ――量的緩和から1年経ったが、実体経済にまで浸透していないようだ。 (山本幸三) 「最初にはっきり言っておくのは、量的緩和に踏み切って1年ではない。昨年3月19日の決定は、当座預金残高を通常4兆円のところに1兆円を上乗せして、前年8月のゼロ金利の状態に戻しただけ。量的緩和というに足るものではなかった。我々が言うところの量的緩和は、昨年9月のテロ事件後に6兆円以上にして、10兆円を超えるようになったときからとみており、ここからを、日銀が初めて思い切って市場に流動性を供給し出した量的緩和と認識している」 「だから、『量的緩和が効いていないではないか』との指摘は間違っている。まだ時間が半年しか経っていないので、これから引き続きしっかりやっていけば、それなりに効いてくるとみている。特に今年に入って日銀は、15兆円近く出している。これはかなり評価すべき量だ。実際に株は上がってきており、為替レートは円安になってきている」 ――量的緩和を続けるのがデフレ解消に有効ということか。 (山本) 「15兆円を続けるだけでなく、今年の9月以降には、もっと増やさなければならない。対前年比15%ずつのマネタリーベースの伸び率を続けていけば、2年程度でデフレ解消に向けた動きがでてくるというのがわれわれのシュミレーションだ」 ●市場から信用されていない日銀 ――まだ完全に効果がでていない。 (山本)「これはやり方がつたないためだ。日銀は、それだけの量を出しながら、『効果があるかどうかわからない』という情けないアナウンスを一緒に出しているものだから、効くものも効かなくなる。まさに“無駄玉”になっており、自ら効果を減殺しているようなものだ」 「日銀はゼロ金利を解除したときのように、過去の行動からみると、少しでも良い芽が出ればやめてしまう。このため、市場参加者に、『本当に腰の定まった量的緩和なのか』と疑心暗鬼を持たせてしまっている」 ――市場との対話不足が指摘されている。 (山本)「日銀は市場に信用されていない。これは金融政策にとって非常にまずい。こうした思い切った政策を打ち出すときには、『自分たちは真剣だ』、『本当にデフレ解消に向けて決意を持って臨んでいる』という姿勢を感じさせなければ、せっかくやっていることが無駄になる」 「はっきりと市場の期待感を変えるためには、インフレ・ターゲットを宣言するのが有効だ。つまり『2年後に物価上昇率を0-2%にする』と打ち出すこと。これには責任が伴うことを意味するので、ここで初めて皆が『始まるか』と思い始めるだろう」 「インフレ・ターゲットの水準は、『0-2%』と言っているが、本当は1以上が良い。CPI(消費者物価指数)では上方バイアスがあって、CPIの1%は本当はゼロというのが学会の確立した評価。1-3%でもいいと思うが、物価目標を導入している国でもその程度なので、おかしな数字ではないと日銀総裁も答弁していた」 ――日銀は「CPIが安定的にゼロ%以上になるまで現行政策を続ける」と宣言している。 (山本)「期間が決まっていないのでは意味がない。いつかはそうなるだろうという話では目標でもなんでもない」 ●日銀は伝統的な手法に固執すべきでない ――山口副総裁は「銀行部門で資金が空回りしており、これ以上資金を供給しても効果がない」と言っている。 (山本)「日銀が短期金融市場に対する資金供給しかやらないという伝統的な手法に固執しているからそうなっているだけだ。現状は、非伝統的な政策をやらざるを得ない事態になっているが、その認識があるのかどうかだ。その事態にあるにも関わらず、伝統的な短期金融市場政策だけをやっているのは、まさに危機意識の欠如を現している」 ――「デフレ脱却には金融政策だけでは限界がある」と言う日銀関係者は多い。 (山本)「デフレというのは金融現象だ。もちろん総需要対策や不良債権処理で政府のやるべき仕事はあるが、それができないからデフレが解消できない、というのは責任逃れ以外の何者でもない。人に責任を転嫁する前に自分ができることを最大限追求してみたらどうか。そんなことを言うのは、自らを否定しているようなものだ」 ――日銀は、「物価目標を達成する政策手段がない」と言っている。 (山本)「手段がないとは、発想が貧困と言わざるを得ない。手段については、完全に日銀に任せるのが良いので、どれをしろ、あれをしろとは言いたくないが、日銀が本当に『手段がない』というならば、即刻、辞めてくれと言わざるを得ない。手段はいくらでもあるという人に総裁になってもらわなければ、国民にとって不幸だ」 「日銀には、『こういう手段があれば良い』というのを言ってきてほしい。事実、我々が作っている日銀法改正案は、運用対象を有価証券まで広げようとしたり、外債を購入できるようにしようとしているのだが、どれをどう使うかは日銀が考えるべきこと。『こういう手段が与えられればできる』というのがあれば、我々で法律を変えてあげるつもりだ。それを探し出すのが日銀の仕事だ」 ――物価目標導入の反対意見として、将来のハイパーインフレへの懸念がある。 (山本)「インフレになる可能性に言及するのは、その効果を認めると言うことなのか。これをまずはっきりさせてもらいたい。これを聞いたうえで言いたいのは、インフレ・ターゲットは上限も決める。上限を超えそうになれば、それを超えないような政策を機動的に行なうということを理解していないのではないか。さらには、もともとインフレ・ターゲットというのは、ハイパーインフレを避けるために導入する政策で、それが各国で成功している。それができないのは、日銀の担当者が無能だと言っているようなもので、これは、全然、反論になっていない」 ●円資金供給で外債購入はした方がいい ――自民党内で検討する日銀法改正案では、外貨購入の規定を加えた。 (山本)「外債購入の際、日銀が金融調節で必要だと認めたら外貨購入もできるという改正を加える。外債は債券なので今の日銀でも買えるはずだが、為替との絡みがはっきりしていない。外債購入をやろうとしたとき、たまたま外貨売買にあたるという理由から事実上できないようになっている。これはおかしな話なので、この部分を整理して、現実にできるようにした」 「日銀は、いつも日本国債だけではなくて、円資金の調節手段として、外債を購入した方が良いという状況はあるはず。金融政策は、現金と違った種類であればあるほど効果が上がるはずで、それを進めていけば、投資信託やREITというものがでてくるが、そのなかで円資金の供給で外債というものは当然ある」 ――日銀が為替に影響を与えることになるのか。 (山本)「マクロ経済・金融政策の結果として円安になることはあるかもしれないが、それを念頭に行なうわけでない。それを持って為替介入とは違う。これは中長期的に現れてくる結果で、為替介入とは短期的に乱高下を防ぐためのものだ」 ●民需刺激の公共投資、投資・消費刺激の税制を ――デフレ脱却のために金融政策以外の手段は何があるか。 (山本)「中長期的には金融政策しか効かないと思うが、それを補助するための財政・税制はあり得る。今のデフレは需要不足で起こっているので、民需の刺激につながる財政支出が必要。ただ1回で終わる支出では意味がないが、公共投資がすべて悪いとは思っていない。都市再生で民間投資を刺激するようなもの、公共投資のなかで民間投資に結びつくものはむしろこの際は増やすべきで、そうでないものを整理縮減すべき」 「税制は、民間投資刺激、個人消費刺激型の税制は是非考えるべき。投資減税、あるいは相続税、土地住宅促進税制などをしっかり考えるべき」 ――財政出動には国債発行の30兆円枠が関わってくる。 (山本)「30兆円自体は意味がないと思う。大事なことは日本経済をどうするかというビジョン。デフレを解消して、潜在成長に乗せるような姿をビジョンとして描いて、そのためにどうしたらいいのかを考えるのが本来の経済政策の手順であって、そのための手段である国債発行額が目的化するのは本末転倒。最初に言い出したので仕方がない面はあるが、今年以降は、それを議論しないで、目標をはっきり打ち立てて、デフレはなくす、成長率はこうする、そのための消費・投資をどうすると。中期的に財政再建は当然必要なので、それは中期的な手順で考えると。これは中期展望に書いてある」 「しかも、中期展望には『2年後に物価はゼロから2%にする』と書いてあって、はっきりしたインフレ・ターゲット政策を持っている。日銀総裁もそのメンバーになっているので、何を今更『できない』などと言っているのかという感じがしてならないが」 ――不良債権処理については。 (山本)「デフレを解消するという最優先事項がなければ本質的な解決にならないと思っている。デフレが解消されないので毎年10兆円ずつくらいの不良債権がでている。まさか毎年10兆円ずつの公的資金を注入するつもりなのか。早くデフレを解消して、金利を上げられるようになって、銀行が収益で不良債権の処理を解決できるようにするのが先決だろう。だから、不良債権を処理すればデフレがなくなるという議論はあり得ない」 |