1. 来年4月からの消費税率引き上げに関連し、安倍総理が復興特別法人税の1年前倒し廃止を求めたところ、野党民主党のみならず、与党側からも強い反発の声が上がっている。自民党税調幹部や公明党の山口代表などは、「復興財源がなくなると、被災地の理解が得られないのではないか。」とする懸念を表明している。他方、自民党の石破幹事長は、「景気回復による増収で、財源は十分賄える。」との見解を示している。私から見ると、いずれも的外れの議論のように思われる。
私の結論は、「復興特別法人税の前倒し廃止は可能で、その財源も全く心配ない。」というものである。以下、その理由を申し述べたい。
2. そもそも復興財源を増税に求めたということ自体が間違っていたのである。経済理論上、戦争とか大災害など、一時的に巨額な財政支出が必要となった場合には、国債を発行して超長期に渡って序々にこれを償還していくというのが最も合理的な手法である。加えて日本のように長期デフレから脱却しようとしている国にとっては、もう一つの取って置きの方策が可能となる。それは、(直接または間接的な)日銀による国債の引き受けである。私が、「財源は全く心配ない。」と言うのは、この日銀による国債引き受けが現に大規模に行われているからである。日銀の国債引き受けには、財政法第5条ただし書の規定による直接引き受けと市場から買い切る間接引き受けとがあるが、その経済的効果は全く同等である。
3. ここでアベノミクスの原点を思い起こして頂きたい。二年半前、東日本大震災の直後、安倍総理と私が中心となって「増税によらない復興財源を求める会」という議員連盟を発足させ、超党派の連合会も結成して、以下のような声明文を発表したものである。
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増税によらない復興財源を求める声明文
3月11日の東日本大震災で被災された方々に対し、心よりお見舞い申し上げます。被災された方々の救済と共に、復興に全力を挙げるのが我々国会議員に課せられた責務であることは言うまでもありません。大震災から3ヶ月を過ぎ、復興財源の在り方が問われ始めています。増税で財源を賄おうという案もありますが、その場合国民1人当たり数十万円にも上る大増税になる可能性があり、これでは十年以上もデフレが続いている日本経済へのダメージは計り知れません。経済を破壊しては、復興も財政再建もあり得ません。被災者にとってもその負担は大きすぎます。震災復興にメドが立ち、デフレを脱却、経済が安定成長軌道に乗るまでは増税などすべきでなく、今は、国債や埋蔵金など増税によらない復興財源を見出すべきです。
よって、以下の理由から我々は、まず第一歩として、政府と日銀の間で政策協定(アコード)を締結し、必要な財源調達として政府が発行する震災国債を日銀が原則全額買い切りオペするよう求めます。
1. 国債の買いオペは既に行われており、米国FRBが量的緩和政策(QE2)で大量の国債買いオペを実行し成功した例から見ても、有効であることは明らかです。
2. 日本は今デフレで大幅な需給ギャップを抱えている上に東日本大震災という景気後退ショックが重なったのですから、これに増税するのは自殺行為です。歴史的にも経済が縮小しているときに増税に成功した国はありません。財政再建のためにも、デフレを脱却、過度の円高を是正し、名目成長率を上げるようにするのが基本であり、一層の金融緩和がどうしても必要です。それと復興対策が同時に可能になるのですから、一石二鳥です。
3. 上述したような日本経済の現状では、相当規模の買い切りオペを行ったとしても、物価の安定を目指した適切な金融政策運営で過度なインフレを防ぐことは十分可能です。米国のバーナンキFRB議長は、「自分達はインフレをコントロールできる能力を十分に有している。」と自信満々であり、日本でできないことはあり得ません。これによって、激しいインフレにならないようにすれば、「円の信認」が失われることはありません。
4. 財政規律が失われ「国債が暴落」しかねないと心配する向きもありますが、財政破綻を防ぐためには基礎的財政収支のGDP比をプラスにする必要があり、その要は名目成長率を引き上げることです。現時点で増税すれば、名目成長率は下がってしまい税収も上がりません。他方、買いオペで貨幣供給が増えれば、デフレ脱却、円高是正、名目成長率の上昇が期待でき、真の意味での財政再建に資するのです。経済が安定成長路線に回復したときに進めるべき「基礎的財政収支改善の工程表」を予め明確にしておくことも有用でしょう。
まず、政府・日銀間で政策協定(アコード)を締結し、震災国債の原則全額を日銀が買い切りオペするよう求めます。
以上、決議する。
平成23年6月16日
増税によらない復興財源を求める会
会長 安倍晋三:
以下、自由民主党・民主党・みんなの党・国民新党・
社会民主党・公明党・無所属から211名が参加
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ここからアベノミクスはスタートしたのであり、安倍総理が原点回帰を求めているのは至極当然のことなのである。
4. 日銀の国債買い取りが何故財源になるかというと、それは通貨発行益というものが存在するからである。例えば、日銀が1万円を発行すると、その印刷コストは20円程にしかならないので、残りの9.980円は自動的に日銀の利益になり、それはやがて日銀納付金という形で政府に戻ってくるのである。
かつて自民党内で行われた勉強会の席上、東大の岩本康志教授は「通貨発行益は国債の利払いに基づくものなので、当てにはできない。」との批判を展開したが、これは日銀という中央銀行がどういうものかということが分かっていない素人の議論である。政府が日銀に国債の利払いをしているのは、形式的に日銀が別法人になっているからに過ぎない。元々、日銀は政府の一部だと考えれば、国債発行額そのものが通貨発行益になるということが理解できるだろう。
5. もう一度整理していうと、「日銀が買い取って保有している国債は政府の財政負担にはならない。」ということだ。形式的には一度国債利払いや満期償還という形を取るが、それはいずれ(多少の取扱いコストは差し引くが)日銀納付金として政府に戻ってくるからである。その意味で、現状日銀が国債を大量に買い取っているので、日本の財政状況は大幅に改善しているのだ。日銀以外の主体が保有する国債残高は昨年9月末に731兆円だったものが、今年6月末には707兆円にまで24兆円も減少している。日本の財政状況を正確に表すには、日銀保有の国債を除外して考えるべきなのだ。
6. しかし、こうした「打ち出の小槌」はいつも使えるものではない。デフレから脱却し、CPI2%のインフレ目標値から大きく乖離(3%超に)しようとする場合には、日銀は保有している国債を売却しなければならなくなる。この場合、通貨発行益は逆に失われることになる。従って、現在日銀が購入している国債全てを新しい財源として当てにすることはできないが、40~50兆円位の財源は十分に賄うことができる。
その意味では、復興特別法人税だけでなく、所得税、住民税の付加分も同時に廃止すればよいではないかという議論も十分成り立ち得る。この点は、政治判断次第である。
7. さて、来年度からの復興特別法人税前倒し廃止は可能としても、それ以降の法人税の実効税率引下げとなると話は別である。これを実施するには通貨発行益ではない恒久財源が必要となるからだ。租税特別措置の抜本改革やほかの基本税の増税措置がどうしても必要となろう。その意味では今から将来の税体系の在り方をしっかり考えておくのが望ましいのではないかと私は考えている。
現在のアベノミクスで日本経済は急速に回復することが期待される。2015年度の消費税10%への引上げも問題なく乗り切ることができるだろうし、2016年度から2020年度に至るまでの間はオリンピック特需もあって日本経済はむしろ過熱気味になる恐れもある。そして、オリンピック後の2021年度は逆に景気の急降下が予想される。こうしたことを考えると、2016年度から2020年度の間に消費税をもう5%引上げるということは景気変動をならすという点からも極めて合理的である。その中で、法人実効税率の引下げも考えていくというのが筋ではないか。
(以上)
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