平成23年3月28日
衆議院議員 山本幸三
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私が提言している「20兆円規模の日銀国債引き受けによる救助・復興支援を」という案は、未だ採用されていない。これについて与謝野経済財政相は「法的にできない」、白川日銀総裁は「通貨の信認を失う」、五十嵐財務副大臣は「インフレになる」とそれぞれ発言し、否定的だ。私から見ると、これらの批判はいずれも俗論、妄説の類に過ぎず、そのことを証明するために3月25日、衆議院・財務金融委員会で質問に立った。以下は、その質疑を通じて得た結論を踏まえ、改めて訴えたいことである。
2
第5条 国債整理基金特別会計において、「財政法」第5条ただし書きにより政府が平成23年度において発行する公債を日本銀行に引き受けさせることができる金額は、同行の保有する公債の借換えのために必要な金額とする。
何のことはない、「日銀の国債直接引き受け」というのは毎年の恒例行事であって、「禁じ手中の禁じ手」などと批判する方が馬鹿馬鹿しいという話なのだ。「借換え債」という形ではあるが、経済的な意味合いは、市場を通さない「日銀の直接引き受け」という点で何ら変わりはない。平成22年度の実績は11兆円程度ということだから、金額もかなり巨額である。
この事実を国会議員を初め全国民がよく知るようになれば、「国債の日銀直接引き受け」に対する抵抗感も劇的に薄らいでくるのではないか。「法的にできない」などとのたまう与謝野大臣には、「財務大臣も経験されたのだから、予算総則くらいはしっかり読んで欲しい」と申し上げたいところだ。
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私は、この事実を示した上で白川日銀総裁に「この直接引き受けで通貨の信認は失われましたか?」、五十嵐財務副大臣に「インフレになりましたか?」と優しく問いかけた。すると、白川総裁は「通貨の信認が失われることはなかった。」、五十嵐副大臣は「インフレにはならなかった。」と渋々認めざるを得なかったのである。それはそうだろう、過去13年間デフレが続き、円高という形で円に対する過度の信認、円キャッシュ・バブルが生じているのだから。
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次に、白川総裁に「通貨の信認が失われるとは、どういうことか」と問うと、総裁は「円の使用を敬遠するようになるということだが、それは一つに異常なインフレ状態になったとき、あるいは、政府の債務支払い能力が疑われるような事態に陥ったときに生じる」旨の答弁をされた。
白川総裁が現政権の債務管理能力に強い懸念を抱いているだろうことは推測できたが、それはさて置き、「それでは、デフレ下で需給ギャップが20兆円超存在し、しかも大震災でGDPの0.5~1%(2.5兆~5兆円)が失われるという状況で、20兆円規模の国債日銀引き受けをやったらハイパーインフレになるというのか」と問い詰めたところ、「直ぐにインフレになるとは言えないが、日銀が金融政策の目的を離れて財政ファイナンスのために国債を引き受けるという認識が広がれば通貨の信認は失いかねない。ただ、それがいつ起こるのかということはなかなか分からない。」とどっちつかずの締まらない答弁だった。国民にとってはデフレを脱却して2~3%の安定的な物価水準を達成してくれればよいだけの話で、金融政策か財政政策かの分類学などどうでもよいし、そんなことをいちいち気にして生きてなんかいないだろう。その証拠に、先の予算総則など誰も知らずにここまで来たのだ。
5
私は断言する、「円通貨の信認が失われることなど決してない」と!
ドイツで1920~23年にかけて卸売物価が1000億倍という恐ろしいようなハイパーインフレが生じたことがあるが、これはマルク紙幣を2年間で43億倍も増やすという馬鹿げたことをやったからである。しかし、それでもドイツ国民はマルクを使い続けた。つまり、あのハイパーインフレ下でもドイツ国民の「自国通貨に対する信認は失われなかった」のである。
日本で今20兆円程度の円通貨の供給を増やしても、インフレになるどころかデフレ脱却でさえも危ういところだろう。そういうときに、「円通貨の信認」が失われる訳がない。
また、どんな無能な政府であろうと、日本国民が円の使用を止めることはできない。一部の人達は海外に投資を移すかもしれないが、その収益を日本国内で使おうとすれば円に換金するしかないのだから。
こうしたことを考えると、白川総裁の「通貨の信認が失われる」という議論は、単なる脅し文句で実体のない空理空論に過ぎないということが分かって頂けるのではないか。
現下の国難に際し国家がやるべきことは、「十二分に財源を用意しているから全く心配ない。」と一刻も早く国民を安心させることだ。それが、自己のメンツを守るために繰り出す日銀のレトリックに惑わされるようなことがあってはならないのである。
6
(以上)
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