政策レポート

中国出張報告  (2006.7.24)

1. この度、古賀誠・衆議院議員(元自民党幹事長)を団長とする訪中団に参加させて頂いた。中共中央対外連絡部の招待によるものであるが、団員は、私の他に岸田文雄、吉川貴盛、小野寺五典の各衆議院議員、それに古賀先生の秘書2名の計7名である。一行は、7月16日上海に入り、翌17日南京へ。「南京大虐殺記念館」で献花した後、被害者と懇談、その後夜遅く桂林入り(山本のみ、地元スケジュールの都合で、一日遅れの17日に出発、上海経由で桂林にて合流。)。18日は、桂林から陽朔までの「離河下り」を楽しんだ後、深夜零時過ぎに北京入り。19日は本番で朝から晩迄、中国要人との会見漬け、そして翌20日早朝帰国と中々ハードなスケジュールであった。

2. 南京訪問については古賀先生からお聞きした限りであるが、中国側は、一向が「南京大虐殺記念館」を訪問し献花したことを大いに評価し、感激したとのことである。81歳のお婆ちゃんの被害者と面談したそうで、古賀先生は、お婆ちゃんの手を握り、「お互い戦争の被害者として、これから古い友人として仲良くやっていこう。」と語りかけたとのこと。また古賀先生は、「この記念館は、過去の悲惨な記録だけでなく、未来志向で日中友好の実績も展示したらどうか。」と提案し、中国側の理解も得たとのことだった。
  南京大虐殺の数が30万人か否かは別にして、戦争の被害者に対し哀悼の意を示すことに意義があるとして一行は南京を訪ね、そのことに中国側も素直に反応したということだろう。残念ながら私は今回訪問出来なかったが、いずれ一度は訪問しなければならないと思っている。

3. 桂林からの「離河下り」は評判通り素晴しいものだった。両岸に花崗岩の岩山が連綿と続き、正に山水画の世界だ。当日は晴れていたが、一時的に小雨が降り絶好の山水画風景も楽しむことが出来た。水は前日の雨のため濁っていたが、水量が多く、そのため遊覧船のスピードが速くなり、通常4時間かかるところが3時間で陽朔という街に到着した。陽朔には、数多くの土産物店が並んでいて、買い物好きの人達には堪らないかもしれない。最近は、ヨーロッパの人達が多いそうだ。一度後援会の方々でツァーを計画したら面白いかも。

中国の国賓迎賓館「釣魚臺」での食事のメニュー

曾慶紅・国家副主席・中共中央政治局常務委員のサイン

4. 19日の中国要人との会見スケジュールは、以下の通り。
  09:30  蔡武・国務院新聞弁公室主任と会談。
  11:30  王家瑞・中連部部長と会談、その後昼食。
         (劉洪才副部長、李軍局長、郭業洲研究室主任ら同席)
  15:20  武大偉・外交部副部長と会談。
  16:45 (宮本雄二・駐中国大使と懇談)
  18:00  曾慶紅・国家副主席・中共中央政治局常務委員と会見、夕食会。(王家瑞、劉洪才、李軍、郭業洲ら同席)
  20:20  記者ブリーフ。
 
  これら要人との会談を通じて印象的だったのは、中国側が日本との関係改
 善を強く望んでいるということだった。宮本大使の分析によれば、「中国指導部は、昨年の半日デモでショックを受けた。何故なら反日デモは、日頃の不満を爆発させた反体制デモの色彩も帯びていたからだ。以後、反日デモは一切許さないことを決意したとのこと。胡錦濤指導部は、今年に入り対日政策で意思統一。総理の靖国参拝だけは譲れないが、それ以外の対日関係は発展させることで一致。しかし、現実は関係発展も上手くいっていない。かっての鄧小平の時代なら、鄧の鶴の一声で皆対日関係発展に向け走り出したろうが、胡錦濤の権威はまだそこまで確立しておらず、皆牽制し合って第一歩を踏み出そうとしないそうだ。」。対日関係改善の強い意欲はある、しかし、怖くてその第一歩が踏み出せない、何とも不幸な状況である。
  私の訪中は、もう13か14回目だが、今回は少し間が空いて4年振りになる。昨年のデモの影響からか、街を歩いて感じるのは、我々日本人に対する何となく冷たい視線である。車に日の丸を掲げていると石でも投げかけられるような怖さを感じる。こんな感じは4,5年前には全く無かった。そう言えば、街中に溢れていたカラオケ・バーの看板もほとんど見なくなった。単に飽いたからだけとは言えないのではないか。誠に残念な事態である。

5. (蔡武・国務院新聞弁公室主任との会見要旨)
○ 自分の日本との付き合いは長い。1984年には中青団にいて、中日青年交流団の組織者であった。当時の共通のスローガンは、「世世代々に友好発展していかねばならぬ。」であった。 90年代中連部に、そして昨年新聞弁公室に移ったが、同じ考えだ。今は、「如何にして中日関係の軌道を戻すか。」を考えている。
○ 中日関係を規定するに、国交正常化時に交わした中日共同声明など3つの政治文書がある。相互信頼、互恵協力、友好強化の基本政策は変わらない。「歴史を鏡に未来に向かう」は、中国政府の一貫した立場である。

○ 最近の中日関係には深刻な障害があるが、「歴史を鏡に・・・」の精神を堅持し、双方の有識者共通の努力で、中日関係を一日も早く安定した軌道に戻すために頑張りたい。

○ 日本の政治家は、中日友好を望んでいる日本の国民に責任を負うべき。また、戦略的で世界的な視野が必要。中国の指導者にも同じことが言える。

○ 現状では、日本のマスコミ報道に賛同出来ないところがある。中日友好関係の大義を擁護する立場が必要。中国の事実そのものを伝えて欲しい。友好への期待と気持ちを持っている中国政府の立場を伝えて欲しい。3月31日の胡錦濤主席と関連7団体首脳との会見も一部だけを取り上げ、全面的、客観的でなかった。

○ こういう時こそ政治家が「奔走呼号(走り、大声で呼びかける)」することが必要だ。古賀先生が中国の各方面と接触して、共通の努力で政治的障害を取り除き各分野の発展を願っているということは、よく伝わった。

5. (王家瑞・中共中央対外連絡部部長との会談要旨)
○ 古賀先生が「南京大虐殺記念館」見学後の談話に注目した。遺族会会長として、歴史的悲劇を二度と繰り返してはならないとおっしゃったと理解した。

○ 中日関係は、政治的にはボトルネックにある。靖国参拝問題だ。過去亡くなった人々への慰霊を捧げるのは当然だが、戦争を発動した戦争指導者と一般の国民は分けて考えるべきだ。

○ A級戦犯を分祀するとの考えに注目している。日本国内で受け入れられるのであれば、一つのよい方向だと言える。

○ もし短い期間でこれを解決するのが難しければ、もっと知恵を出してお互いに工夫していかなければならない。

○ 中日友好事業に携わる中国の、また日本の友人もこの問題で焦っている。中国のリーダーが圧力を掛けようとしている訳ではないが、その解決がないと我々も受け入れられない。しかし本質は友好にあり、恨みを買おうということではない。

○ 我々は、要求したり圧力を掛けている訳ではない。ただ一つ望むのは、被害者の傷に塩を塗り付けないで欲しいと言っているだけだ。これさえ出来れば、中日関係は直ぐに発展する。

6. (武大偉・外交部副部長との会談要旨)
 ○ 北朝鮮問題については、昨年9月の6者協議で共同声明を出し、その体制、気持ちでやっていけば進展があるだろうと期待していた。しかし、その後アメリカがマカオの銀行に金融制裁を発動、これに北は不満がある。ヒル次官補と「早く制裁を終わらせる方法はないか?」につき意見交換したのだが、ヒルは、「これは、財務省の担当なので、お手上げだ。」ということだった。
 ○ そしたら北は、ミサイルを発射してしまった。北の金(桂冠?)外務次官に抗議したら、「それは軍人のことで、外交官は口出し出来ない。」とのことだった。
 ○ 6者協議の枠内でアメリカと金融協議出来るのでどうだと言ったのだが、断られた。
 ○ どちらか一方が譲歩すれば出来るが、両方とも譲歩するつもりはない。
 ○ 今回の国連決議があるので、各国が冷静、客観的に対応することが必要。対話と協議で平和的、外交的解決を図るべきというのが、中国の一貫した方針だ。
 ○ 5者でという考えをアメリカ・韓国がアピールしているが、中国は慎重にしたいと考えている。これをやると6者協議は無くなってしまう。ゴルフのように地に足を着けてゆっくりやっていきたい。
 ○ 先日の先制攻撃論はよくない。状況が厳しいときなので、言動は気を付けないといけない。

7. (曾慶紅・国家副主席との会見要旨)
○ 中日両国は二千年以上の交流があり、その大部分は仲良く付き合ってきた。然るに近代に於いて、日本軍国主義が発動した侵略戦争で、中国・アジアに大きな損害を与えた歴史もある。

○ しかし、歴史を掘り起こし、恨みを持ったり敵を取ったりしようというつもりはない。歴史を検証するといっても、その目的は、あくまで未来に向けて未来を切り拓いていくべきものである。

○ 中日両国関係は、1972年の国交正常化以来、大きく発展している。3つの政治文書に則り、経済・文化面での交流は空前の規模に達した。

○ 近年、指導者の誤った行動が困難をもたらした。にも拘わらず、中国政府・共産党は、大局から平和共存、互恵協力、平和発展を望んでいる。中日双方は、今日迄の局面と趨勢を大切にしていくと同時に、困難を乗り越えていくことを期待する。

○ 中国経済は、絶え間ない努力の中で今後も安定して発展するだろう。第11期5ヵ年計画では、7.5%の成長目標を決めている。実際には、今年上半期の成長率は10.9%だった。

○ 中国の安定的発展のためには、金融面、技術面などで日本の協力が必要だ。

○ 今後は、全面的、持続可能な人間本位とする経済発展でなければならない。スピードだけでなく、質、効率、環境面で持続可能なものでなければならない。

○ 「人民元レート」については、今金融改革を真剣に図っているところで、その中で考えていくべきものだろう。一方に於いては、今のレートは全体として我が国の発展に合致していると見ているし、諸外国との関係に於いても合致しているとみている。国内外の動向に応じていく、市場経済の動向に応じていく改革を考えている。昨年から、バスケット方式を採用し、柔軟さも増しているところだ。

(以上)