財政及び金融に関する件(2011.7.27) 財務金融委員会 質問議事録

 

財務金融委員会 質問議事録
(平成23年7月27日 )

【財政及び金融に関する件】
参考人:東日本大震災復興構想会議議長  五百旗頭 真 氏
東日本大震災復興構想会議検討部会部会長  飯尾 潤 氏

○山本(幸)委員 自由民主党の山本幸三でございます。

 きょうは、五百旗頭議長、五百旗頭先生と飯尾先生においでいただきまして、本当にありがとうございます。

 私は、できれば提言がまとまる前に来ていただいて、議論していた方がよかったかなと思っているんですけれども、それができませんで、大変残念でした。でも、きょうはいい機会なので、少し見解をただしたいなと思っているわけであります。

 私の問題意識は、どうも最近は経済学とか経済理論に基づかない、間違った議論が横行しておりまして、これは政府内、日銀、財務省はもとよりですね。その結果、国民が非常に困難に陥っている。デフレや、また円高がどんどん進む。それは、経済理論からすれば当然そうなるようなことしかやっていないからそうなるんですけれども、その辺が理解されていない。特に私が問題だと思ったのは、今回の復興構想会議の提言で復興税という話が出てきたことが非常に問題があると思っているわけであります。

 五百旗頭先生とか飯尾先生とか、大変立派な人格者で、そうかなという常識的な判断はまともにやっておられるかという気がするんですが、経済理論とか経済学は、実は常識では律し切れないんです。

 私が大学の時代、経済学恩師の小宮隆太郎さんから言われたことは、常識を疑うことができるかどうかが経済学を本当に理解したかどうかなんだと。常識的に判断すると間違うんだ、そこをぎりぎり詰めていけるかどうかに勝負があるんだよということを徹底的に言われて、ずっとそのことを努力してきたつもりでありますが、復興税なんというのは間違いですよ。さっき岡田さんが言ったのと一緒ですが、それを今から検証します。

 そこで、まず五百旗頭先生に基本的なことをお伺いいたします。

 ちょうど岡田先生が資料を配付していただきましたので、これを使わせていただきますが、要するに、復興の財源確保、復興構想会議の提言の三十七ページ、この資料二枚目の裏ですが、ここに「次の世代に負担を先送りすることなく、」だから復興税をやるんだと書いてある。

 「次の世代に負担を先送りすることなく、」というのは、どういう意味でしょうか。

○五百旗頭参考人 ありがとうございます。

 山本先生のような税、経済の専門家に対して、私のような、その分野の専門でない者が物を申し上げるのは、大変、釈迦に説法になりかねないという気がいたしますが、私あるいは私どもの観点についてお答え申し上げたいと思います。

 阪神・淡路大震災のときは一九九五年、八〇年代が日本は世界一の物づくり国家と呼ばれる好景気の中で、財政状況も改善いたしまして、バブルがはじけたとはいえ、まだ国債は大きくないという状況でありました。

 そのときに比べまして、現在の国家財政の状況は大変な事態でありまして、さきにも申しましたように、二〇〇%GDPの負債を国が抱える。それを続けてまいりますと、何が起こるか。

 国債ということは、とりあえず国が借金をしたわけですが、その返済というのは将来世代に当然ゆだねられるわけであります。しかも、その将来世代、人口増そして経済右肩上がりというときにはその弊は限られたものでありますが、現在のように少子化状況になって、数が少なくなった子や孫の世代が、我々が積み立てた負債を全部対処しなきゃいけない。これはもう大変な政治的犯罪ではないかというふうに思う次第であります。

 そういう事態を避けて、このたびの東日本大震災における財源につきましては、今を生きる世代全体で連帯し、負担を分かち合うということが必要ではないかというふうに考えた次第であります。

○山本(幸)委員 そこが間違っているんです。なぜかというと、もう一回ちょっと整理しますよ。

 少子化とかいうのは、そういう要素は外して物事は考えなければいけない。将来の世代が本当に負担するかどうかを議論するときは、他の事情を一定にして議論しないと経済学の議論にならないんです。同じインフラ整備をするという財政支出について、今の世代に増税するやり方と、国債を発行しておいて将来の世代に増税してそれを償還しますよというときに、今の世代と将来の世代で世代間の効用に差があるかどうかが勝負なんですよ。

 今の先生の議論をお伺いすると、現代世代は復興によってインフラ整備などがやられるという効用を得る。しかし、同時にその負担もしなきゃいけないから税金でやりなさいよ、そこで差し引きチャラですねと。ところが、国債発行ということで将来の世代ということになると、現在の世代はインフラ整備の効用を得るけれども、将来の世代は償還の税負担というものを得るから、だから世代の負担ですねという議論ですね。それでよろしいですか。

○五百旗頭参考人 必ずしもそうではありません。将来世代も、現在、例えば我々が防潮堤をつくり、防波堤をつくりますね。あるいは高台に安全な町をつくる。そのことは、現在生きている世代が受益いたしますが、将来の世代も受益いたします。そういう意味でいえば、将来の世代にも負担を求めることに一理ないわけではないと思います。

 しかし、先ほど申しましたように、GDP二〇〇%の負債を積み上げて、それは結局、将来世代に先送り、ツケ回ししているわけですね。その上にさらにこれを積み上げるということの事態の重大性を考えなきゃいけないんじゃないか。

 経済理論に沿っていない対処というけれども、どうも、経済理論にも、一つではなくて幾つかの観点があるのか。私は経済学者ではありませんので、割と常識に基づく議論で恐縮でありますけれども、議員のおっしゃる、確かに一部は後の世代も受益するから一部負担してもいいと言うけれども、この二〇〇%GDP赤字の中でそういうものを積み重ねれば、対処不可能な、少子化時代の人たちへの負担になるのではないかという点が私どものポイントです。それをしないように、我々の世代で、この復興については、同胞を見殺すことなく支えるという姿勢をとるべきだというふうに考える次第です。

○山本(幸)委員 将来の世代が国債の累増で対処できなくなる可能性が出てくるんじゃないかということは、後で質問します。

 私は、先生方の言われている復興税をやった方が厳しくなると思っているんです。だけれども、国債と税金を比べて世代間の負担の議論をするんだったら、ほかの事情はちょっとおいておいて考えないと議論にならないんですよ。こっちではほかの前提でやったら、議論にならないんですよ。それは経済学上の議論じゃない。

 税金と国債の発行の、世代間の議論をやるときは、要するに、現時点で増税すれば、効用と負担が差し引きゼロ。将来の世代が、復興のために増税しますね、増税して国債を返す。だけれども、その返したお金はどこに行くんですか。返したお金は、国債を持っている将来世代のところに行くんですよ。

 つまり、将来の世代では国債償還ということで税金で取り上げるんだけれども、同時に、国債の利子と元金償還ということでまた同じ世代に返すんですよ。差し引きゼロなんですよ。だから、経済学上の議論では、現代世代が増税でやっても差し引きゼロだし、将来世代を国債で増税しても、利子と償還の金額は将来世代に行くんだから、ゼロなんですよ。だから、国債の負担というのは、将来世代への負担の先送りなんかないんですよ。どうですか。

○五百旗頭参考人 現在の世代が増税をやって、それを払ったものはどこへ行くか。それは、現在の財政に返還されるわけですね。それがなぜ将来の世代に対する負担になるのか、御立論、全然私は理解できません。なぜ、今増税で払ったもの、それを返したものがまた将来の負担になるんでしょうか。私はそれが理解できないので、お答えいたしかねます。

○山本(幸)委員 何が理解できないのかちょっとわからないんですが。

 要するに、増税と国債で世代間の負担の違いがあるとおっしゃっているわけですよ。それが、復興財源を今やらなきゃいけないという議論の前提ですよ。

 ところが、私が言っているのは、国債を発行して将来の世代に負担を先回しするというような議論が常識的にあるけれども、理論的に考えると、将来の世代は、国債の償還のために確かに増税で償還財源を取られるかもしれない、しかし、同じ世代がその取られたお金をまた享受するんですよ。だって、国債を持っているのは将来世代の人間、それは相続か何か知らないけれども、持っているんだもの。世代としては、取り上げるけれどもまた戻してやって、差し引きゼロなんですよ。それは、現時点で増税して復興、いろいろな施策をして、取るけれども使うということと同じことなんですよ。

 だから、世代間の負担というのは、増税であろうと国債であろうと、負担の先送りなんて議論はないんです、経済学では。わかりませんか。

○五百旗頭参考人 わかりません。変な議論だと思います。

 今国が借金して、それを将来世代に払えというのは明白なツケ回しでありますが、今国が増税をして必要な経費を支払うということについては、将来世代に負担がかかるものではないと思っております。

 そして、国民みんなから税を取ってやるのと、それから一部の人が国債を買ってそれを若干の利子をつけて将来返してもらうというのは、問題の性格が違うのではないですか。一部の人にとってはいつか返ってくる利益ではありますけれども、社会の公平な制度というものの中で対応するという観点の欠けたものと同列には語ることはできないというふうに思います。

○山本(幸)委員 いや、あなたが言っている前提のように、今増税して今のあれを賄えば、もうそれで終わりですよ。将来世代には当然ない。私もそれは認めます。

 だけれども、今国債を発行して施策をやりました、では将来の世代は負担だけを負うのかというと、そうじゃないんです。それは国債の利子と償還金をもらうんだから。世代としては、増税も国債の発行も国民の貯蓄を吸収するということで、経済学的には同じなんですよ。それが現世代でやるか将来の世代でやるかなんだけれども、国債の場合で将来の世代が負担だけ負うかということは、そんなことないんですよ。負担を負う、増税してやるけれども、その償還金はまたその世代に戻るんですよ。だから、経済学的には、国債の世代の先送りというのはないんです。

 これはもう経済学の教科書には書いてあるんだよ。日本の教科書には余り書いていないけれども、アメリカの基本的な経済学の教科書にはちゃんと書いてありますよ。

 そこの国債の負担の議論というのは非常に難しい。金利の問題が出てくるのはちょっとあるんだけれども、しかし、基本的には、国債を発行したからといって、将来の世代に負担の先送りというのはないんですよ。そんなことを言っているのは、財務省の経済学をわかっていない連中が言っているだけですよ。

 飯尾先生はどうですか。

○飯尾参考人 御議論を伺っておりましたら急に当たりまして、慌てておりますけれども。

 まず、経済学のことでございまして、私自身は専門家ではございませんけれども、私どもの会議、検討部会には、実はたくさんの意見書のようなものをいただきました。経済学者の方からたくさんいただきましたが、私はそこで発見をいたしましたのは、専門の経済学者の方の意見が分かれているということを発見いたしまして、やはり、目のつけどころによってそのことが分かれるということでございます。

 そこで、今のことについて、具体的にそれほど私に知識があるわけではありませんが、もともとのところに戻りますと、今回、私どもの復興構想会議の議論は、震災復興をどうするかということでございます。

 その中で、財源をどうするかということでございましたので、一般論としましては、もちろん緊急を要することでございますから、復興債その他があって緊急に支出されると大変結構ですけれども、一般論とすれば、やはりそのような国債というのは償還されるべきものであって、しかも、私ども、実はこれは臨時の費用だというふうに考えていますので、一般原則ではないところを考えないといけないというところで、その選択肢の中に増税というのを入れるかどうかということがあろうかというふうに議論をいたしました。

 そのときに、増税というのは、普通やっている支出よりもふえる支出をするというわけでございますが、どこかでいずれは、今回なのか将来なのかわからないけれども、賄われるだろうというふうに議論をしたところでございます。

 その点で、実は、我々の議論としましては、やはりそれは排除はできない。今のお話でしたら、これはどちらでも同じだということかもしれませんが、ただし、国債を発行した場合にはやはり財政が硬直化してくるという部分がございます。金融的に見れば、今御主張の点はそのとおりだというふうに思いますけれども、財政が硬直化して、将来にもまた災害がある可能性がある。今回のもの、実は、新たに構造物をつくるばかりではなくて、もう既に、今ある構造物をつくるときに借金をしてつくっておったりします。実はその効用は失われていて、さらにまたつくらないといけない。

 あるいは、今回の場合、災害でありますから、後始末にもお金がかかるということになりますと、やはり、必ずしも今回の支出というのが将来の世代にわたって利益を与えるというわけにもいかないということも議論いたしまして、さらにその上に、国民感情として、多くの方が震災に対して何かできることはないかという、その感情の中でいうと、財政的にも負担してよいという声も多く寄せられたので、やはりこのような選択肢は除くべきではないというふうに考えたところでございます。

○山本(幸)委員 いろいろな議論があって、経済学者の意見は分かれていると思いますよ。ところが、一方的なことしか書いていないんですよ。そこが問題なんだ。

 復興構想会議のメンバーを見ると、私から見ると、マクロ経済学とか財政金融政策の専門家なんか一人もいませんよ。労働経済学と環境経済学の専門家だけじゃないですか。そういうメンバーでこの大事な国民生活に最も影響する財源論を簡単に決めていいのかということなんですよ。

 そこで、私の資料をちょっと見てもらいたいんですが、今、飯尾先生がおっしゃったように、こういう大災害というのは戦争に匹敵するんですね。戦争とか突然の大災害というのは、その世代の人たちの責任でもない。それで、大変な被害をこうむるんですよ。一時的に巨額な支出が必要となる。これを賄うときは、公債でやるのが当然なんですよ。

 これは、二ページの野口さん、先日参考人で意見陳述を聞いたときに書いています。なぜならば、増税というのは、物すごく社会の今の厚生に、相当の負担をかけるんだ。厚生経済学上でいうと、二乗に比例する悪影響が出るんです。だから、従来から、戦争費用とか大災害の費用というのは、公債を発行して長期で徐々に返していくというのが筋なんです。

 それが、この三ページ目に書いてある、浜田さんとクーパーさんのペーパーで出てくる公債残高のGDP比率です。つまり、アメリカでもイギリスでも日本でも、戦争中には公債を発行せざるを得ないんですよ。だけれども、その償還はどういうふうにやっていったかというと、大体平均して三十年かけているんです。そして、やっとなだらかに落ちついてくる、これが本来的なやり方なんですよ。

 そこでお伺いしますが、今、日本はデフレで、そして超円高に悩んでいる。そこにこの大震災が起こった。そういうときにすぐ増税して何が起こると思いますか。

 五百旗頭さんか、飯尾さんか。

○五百旗頭参考人 増税ということは、それ自体、だれにとってもうれしいことではありません。増税、まずポケットの中から国に経費をより多く出すということへの素朴な喪失感もありますし、それから、今、山本議員御指摘のような、景気の悪化ということの危険もないでもありません。しかし、では必要な経費を全部公債に回してそれで済むかといえば、先ほど来言っているような弊害も生ずるわけです。

 今、この大災害に対する復旧のための四兆円の第一次補正、そして二兆円の第二次補正、これは小さくない額で、被災地へ定期的に訪ねておりますと、第一次補正が出た後、その地域にとって小さくないインパクトがあったということを感じます。もちろんツーリトル・ツーレートであって、もっと早く、もっと大きくということは、当然、悲惨な現場からの強い要請があるわけですが。

 それでも、第一次補正が動き始めた後は、例えば仮設住宅が全然足りないという叫び声が合唱のようにあったのに対して、その後、行ってみると、いや、最初に言った必要仮設住宅の六割から七割で結構だと現地の方がおっしゃるんですね。どうしてですかと。それは、あの地域は人口減少状況にありますので、あいた民家がいっぱいある。そのあいた民家の家賃を第一次補正で国が出したから、そっちの方が、不便な仮設住宅、プレハブを並べたようなところよりも住みよいと選択する人が少なくない。そのために、最初に言ったものの六、七割で足りるんだという説明だったんですね。

 それから、海の瓦れき処理についても、日当一万二千円が出るようになったので、今まではもう茫然と手がつかなかったのが、前向きに自分たちの漁場を再建するという希望が出てきたというふうなことも聞きました。

 そういうふうに、あの地にとって四兆円の第一次補正だって小さくないインパクトを持っているんですね。これが第三次補正となって、その規模がどうであるかというのは先ほどの岡田議員とのやりとりでもありましたが、相当な巨額である。それが動き始めたというときには、復興需要というのが小さくない。ある種の経済ブームを促進するだろうと思います。

 そういう意味で、日本の来年のGDPの国際予測というものについても、かなり楽観的な、前向きなものが少なくないというふうに理解しております。そういうふうな、需要が高まり、経済ブームが起こる中での増税ということは、一方的にデフレ深刻化、GDPの下落、そういうことにはならないケースも多い。

 いずれにしても、この復興、我々が同胞を見捨てずに支えるということが必要でありますから、よい方向につながるように、復興需要の中で増税もなし得るということを願ってやるべきではないかと思う次第です。

○山本(幸)委員 復興のためのいろいろな施策が行われて需要が出るのはいいんですよ。それで少し需要が出てくるのは結構なことです。そのときに、その芽を増税でつぶしちゃいけない。そこを私は言いたいんですよ。

 復興という財政支出が拡大すると何が起こるか。円高になるんですよ。要するに、変動相場制のときには為替レートが動くんだ。財政支出が拡大されたら金利上昇プレッシャーがかかって、そこに資金が入ってきて、円高になるんですよ。これがマンデル・フレミング理論というものの教えるところです。もう今、起こっているんですよ。理論どおりに動いているんですよ。そのときに、これで増税すると、企業は逃げていきますよ。雇用は失われますよ。

 そして、デフレは本当に直るんですか。僕はデフレはいよいよ深刻化すると思いますよ。今、実質成長率が何%とか数字を言っているけれども、名目成長率は上がりませんよ。名目成長率は下がって、税収は下がるんじゃないですか。

 九七年、橋本増税で、一気に景気は下降に向かったじゃないですか。それを今、繰り返そうというんですか。それとも五百旗頭議長は、いや、増税したって絶対名目成長率は上がって税収は上がると確信できるんですか。

○五百旗頭参考人 そのような確信があるわけではあり得ません。

 そもそも、私は経済の専門家でもないし、国の財政を動かす者でもありません。しかし、九七年の橋本増税、三%から五%にふやしたときが悲惨な結果になったから今度もそうなると、もし山本議員が立論されるのだとすれば、それは粗っぽ過ぎると思います。

 あの九七年のときは、御承知のように、東アジア経済危機と連動してしまったわけですね。最悪の国際経済環境と連動した。もう一つは、九〇年代に入って、バブルがはじけ、不良債権の問題を効果的に、迅速に対処できない、その無為の蓄積とこれがまた連動したわけですね。そういう最悪の重大な二つの条件があって、そこで増税したことの失敗。しかも、増税するときに、ある種の、逆に経済活性化のための措置というのを補完的にとればいいものを、実質九兆円の増税になるように加算していったという対処のやり方の間違いであって、このたびはその環境とは違う。

 先ほど来言っておりますように、復興需要というものを、この国債によって集めたお金で政府が大きく働くわけですね。まれなスペンディングをあえてやる。その中で行われることでありますので、もちろん生き物の経済でありますから、どっちの目が出るかということについては私のような素人が簡単に言えるものではない。

 しかしながら、悪い方にばかり、GDPの下落とデフレと円高と、円高というのは、復興需要が始まる前に、今既に起こっている、むしろヨーロッパあるいはアメリカの事情に主たる原因のあるものだと私は理解しておりますけれども、そういうマイナス面ばかり一元的に見るということについてはどうなのかというふうに思っている次第です。

○山本(幸)委員 九七年の橋本さんの増税は、増税を四月にしたら、五月からもう景気が落ち出したんですよ。アジア危機が始まったのは秋ですよ。財務省は、そのときの言いわけをするために、アジア危機があったからと言おうといって決めたんですよ。私は知っているんだ、そのことは。アジア危機は言いわけに使えると。日本はアジア危機で影響なんか受けていませんよ。そういう事実をきちっと押さえた上でやってくださいよ。

 要するに、増税すれば名目GDPはマイナスになるというのは、もう内閣府の試算でも出ている、これは法人税、所得税。それから消費税については、モルガン・スタンレーのロバート・フェルドマンさんも試算していますよ、デフレはどんどん進むと。マクロ経済モデルを使えば、そういう結果になるんです。

 それで、国民生活をいじめて、増税をしていじめて、円高をいよいよ加速させる。デフレになれば円高は進むんですから。それから財政支出を拡大すれば進むんですから。

 そんな政策が本当にいいのか。岡田さんが言ったように、こういうものは長期にやるべき話なんですよ。そして、本当の財政再建の道というのを、どうしたらいいかというのを考えて、本当はそれを一緒にやるのが一番いいんですがね。

 では、もう一個、お伺いしますが、増税する場合には、日本国債に対する市場の信認を維持する観点から重要だと。日本国債に対する市場の信認というのは何ですか。

○飯尾参考人 ありがとうございます。

 これについては、実は、会議あるいは検討部会ではこういう議論をいたしました。確かに、増税することによって経済が抑制される、こういうリスクが十分ある。しかしながら、実は世界的に見ると、今度の震災で日本はだめではないか、こういう風評のある中で、返す当てのない国債を発行するというふうなことをしたときには、もしかしてその失われる可能性がある。

 実は、そのときの影響は極めて甚大で、なかなか起こりにくいけれども起こったときには大変重大な結果を、国債が暴落するというような重大な結果を生むということで、それを比べるときに、リスクの問題でございますから、どちらが本当に起こるのかということはわかりませんが、我々、実は今回、震災のようにリスクを扱う議論をいたしましたので、可能性は少なくても起こった場合は非常に大きな影響の起こる、そのような災厄は招くべきではない。

 その観点からいうと、やはり基本的には特別の支出増を求めて、そしてそれをいずれ返さないといけないというときに、返す当てをきちんと考えるということは重要だというふうな観点で、この信認という言葉を使ったということでございます。

○山本(幸)委員 だから、増税して増収にならなきゃ意味がないわけですよ。だけれども、私が言っているように、今の現状のデフレで超円高で、震災というショックが起こったときに増税すれば、名目成長率は落ちる。増収にならない。大事なのは税率じゃなくて税収なんですよ。それはこの前フェルドマンがニューヨーク・タイムズに書いていたように、アメリカでもそうですよ。

 そこで、国債の信認のときに、皆さん方が非常に、先ほどから五百旗頭先生も言っておられるんですが、要するに、公債残高の対GDP比率が高くなっていて問題だということでしょう。これをコントロールできればいいわけですよ。それが国債の信認そのものの問題ですよ。これは、僕は同意しますよ。

 ところが、そのアプローチが、私から見ると、分子の公債残高が何でふえたか。デフレで税収が上がらないから、公債を発行せざるを得なくてふえたわけですよ。デフレで名目成長率が上がらないから、二十年前と名目成長率は一緒なんだから、名目GDPは一緒なんだから、だから、しようがないから、税収が上がらないから公債残高をふやさざるを得なかった。分母の名目GDPも二十年前と同じだから、この比率がどんどん上がっているわけですよ。

 だから、将来の世代に、将来の人に本当の意味の負担を残さないとか、本当の意味の国債の信認とかいうのは、この比率を下げるようにするために何が大事かといえば、名目GDPを上げるということが最優先なんですよ。そうしていけば、自然にこれは収れんしていくんですよ。その観点がない議論をここでやって、そして日本経済をつぶして、企業を海外に追い出して、失業者をふやすというようなことを提言したというのは大問題だと私は思っているわけですよ。

 では、どうしたらいいかということですが、これは簡単なんです。五百旗頭先生の最初の提言のところで、要するに、義援金プラス公債プラス震災復興税とありますね。つまり財政の予算制約式というのは、税金か寄附金か、それか公債かということになるんだけれども、もう一個あるんですよ。それが抜けているんだ。だから議論が発展しない。

 それは、通貨発行益というものですよ。日本銀行が通貨を発行すると、自動的にもうけるんですよ。一万円札は二十円でできるんだから、これを何で活用しないんだ。

 インフレのときだったら、これはできない。それが心配だから通常はやらないということになっているんだけれども、デフレのときこそやらなきゃいけないんですよ。そうすると、増税なんかやる必要ない。そして、通貨が発行されて、財政支出拡大による円高の影響を阻止できるから、円安に進むんですよ。これをやらなかったら、日本は本当に終わってしまいますよ。

 日銀の買い切りなり引き受けについて、この通貨発行益を使ってやるという観点が、どうして五百旗頭先生の考え方に抜けていたんでしょうか。

○五百旗頭参考人 私が返答すべき事案かどうか、通貨総量をどうするかということ、これは私よりも当局の方に答えていただいた方がいいと思いますが。

 山本議員がおっしゃった中で遺憾だと思いますのは、企業が海外に逃げる、その危険が電力の問題にも拍車をかけられているというのは、まことにもう残念なことであります。

 しかし、他方、このたびの東日本大震災が起こって教えられたことの一つは、農業、漁業を中心とする東北地方というイメージがかなり間違っている、それに劣らぬ地域GDPを電機産業、自動車部品等が占めているということは教えられました。

 それが壊滅的打撃を受け、国際的影響まで出たというので憂慮したわけでありますが、幸い、日本社会の現場力というのは大したもので、被災者も立派だし、自衛隊もよく頑張ったし、企業も、あるいはボランティアの人も非常に立派な活動をしている。八月までに九〇%のサプライチェーンは回復する、いや九五%だと、大変な復興能力ですね。のみならず、トヨタのように、新たな工場を東北に立地しようというところもある。

 これがまさに、我々、飯尾部会長のもとで検討して書いたことの一つの大事な点でありまして、特区のような制度を使ってでも、それは規制の緩和もあれば税制上の優遇措置もあるし、その他インセンティブをつけることも考えて、この地域が、産業、先端的になるということを支えるべきではないかというふうに考えたわけです。

 そういう意味で、海外へ逃げていくという傾向がある、それに対してしっかり食いとめるような対処をすべきだというのが我々のプランであって、我々のプランがまるでそれを促進するように言われたのは大変遺憾であります。

○山本(幸)委員 いや、プランで、日本人や民間企業や住民は頑張っていますよ。これはまさに世界に冠たるものですよ。だから、その意欲なりその気持ちをつぶさないでほしいと。増税したらつぶれますよ。そんなのする必要ないんだ。日銀に買い取らせればいいんですよ。僕は直接引き受けがいいと思う、これは後で一回議論するけれども。それをつぶすような提言をされたら、元も子もなくなるというのが私の懸念なんです。

 きょうは時間がもう足りなくなったので、最後に大臣に感想だけお伺いします。

 私は、この短期に増税で賄わなきゃいけないという考え方自体が間違っている。本来のやり方とは違うし、このままいくと超円高とデフレで日本経済は大恐慌になりますよ。それについて大臣はどのようにお考えでしょうか。

○野田国務大臣 お答え申し上げます。

 基本的には、復興構想会議にまとめていただいた御提言を踏まえて、今週中に復興の基本方針をまとめていきたいというふうに考えております。

 その際に焦点になるのは、償還期間と、そして、臨時増税の場合にはどういう形にしていくかという議論でありますけれども、基本的には、今までの御議論を通じて、復興会議の御意見も出てまいりましたが、まずは償還期間については、これは余り長い形ではなくて、復興のつち音が聞こえているときに国民に御負担をいただいて、復興に向けて貢献をしていることが実感できるようにすることが肝要ではないかなと私は思います。

 一方で、そのことによる影響は、これは十分気をつけなければならないと思います。仮に臨時増税をする場合には、それは家計への影響があると思います。一方で、財政支出がふえる分、それは所得がふえていくということもあるわけで、それが消費につながるということもあります。

 そして、マーケットの信認等々を踏まえて総合的な判断をしながら、上振れ、下振れ、両方要因がありますので、かじ取りとしては、経済に実害が出ないように最大限注意をしながら、復興に向けての取り組みを力強く推進していきたいと思います。

○山本(幸)委員 この復興構想会議のもとになった議論が経済理論的に間違っていると私は思いますし、また、それを受けて政府も短兵急に増税なんてばかげたことをやろうとしている。これは日本をデフレ、超円高に導いて、名目成長率を落として、増収になりませんよ。そして震災恐慌に向かう道だと警告を発して、私の質問を終わります。