鳥取市鹿野地区は、古くから因幡国西部の中心都市であり、江戸時代初頭に亀井茲矩によって鹿野
城が築かれ、城下町として整備されています。今回見させていただきましたが、城下町らしいT字
路やL字路、道幅と一帯を網の目のように走る水路などは当時のままのようです(↑)。
こちらでは、街並み環境整備に取組んでいた住民グループで構成される「NPO法人いんしゅう鹿
野まちづくり協議会」等が、空き家となっていた古民家を改修し活動拠点や食事処を整備するな
ど、空き古民家再生の取組を行っています。また、その改修や片付けの面で協議会が事前調整を行
うほか、イベント開催や賑わいを創出する事業も進めています。
鹿野地区では、空き家を移住者のために積極的に活用することで、2017年3月までの5年間
で、移住者は東京、大阪、四国などから60人にものぼります。移住者の年齢層は、60歳前後の
リタイアした人々から20代30代の若者など様々であり、7割が20代30代だといいます。近
年では特に農業を志望する人、アーティスト、役者などの若者が増えているそうです。ただ、小林
さん(NPO副理事長:上写真先頭)によれば、あくまでも移住してくれるのなら誰でもよいという
わけではなく、鹿野の良さを理解してくれる人に来てほしいといいます。つまり、400年間受け
継がれてきた町の空間的資源と文化的資源を大切にする価値観に共感してくれる方ということで、
そうした強い当事者意識をもって、つながりをもちながらより良いまちにしていくという気概を持
っている方に来ていただきたいと仰っていました。
そうした住民の主体的なまちづくりによって、「藍染め暖簾」を使ったまちぐるみの景観演出(↑)
や、「いんしゅう鹿野盆踊り」などの賑わいづくりもなされています。
上写真の「ゆめ本陣」では、古民家を改装し、手作りの和小物を中心に着物をリフォームした衣類
やバック、地域の特産品などが販売されており、「毎日が作品展」だといいます(店内:写真上)。
こちらでは、ハンカチやTシャツなどの藍染めの体験もできるそうです。
また、もうひとつ訪問させていただいた「八百屋barものがたり」(写真上)は、徳島県から移住され
た30代の店主が、自分たちの手で2年間かけて空き家を改修して開店した飲食店です。「人が集
う場所をつくる」、「人々のものがたりが生まれる場所にしたい」を目標に運営されているそうで
す。
今回、上記のお店の方々や他の実際移住をされてきた方と意見交換をさせていただきました(↑)が、
一般的にどこかへ移住をする際は、移住先で「いつまでいるのか」などという見えないプレッシャ
ー、「移住圧」が移住者にとってネックとなるようですが、この鹿野という地域のスタンスは、
「出入り自由」というものだそうです。決して「移住者獲得サービス合戦」に陥ることなく、鹿野
の価値を支えるための活動を様々な人々と協力しながら、経済的利益を目的にせずに続けていけば
よいというスタンスのようです。これは、まちの価値を安売りすることなく、自分のまちの価値を
自分たちで把握して戦略を立てる、というもので、その身の丈にあった考え方から、鹿野のような
小さくも美しいまちの、人口減少時代の生き残り方が見えてきます。
また、驚いたのは、古民家などを利用する際、提供者の仏壇やすぐには動かすことのできない大き
な荷物などの存在が問題となるようですが、こちらの鹿野地区では、「それはそれとして」という
スタンスのように、新しく再利用する際もそのままで利活用していくのが一般的だといいます。昔
の居住者がいつでもお焼香をあげることができ、忘れ物を取りに来ることができるのです。そうい
う意味で誰にでも門戸の開いた、ウェルカムなスタイルも、この鹿野地区の移住施策の特徴のひと
つです。
(大江ノ郷ヴィレッジにて。小原代表取締役社長(私の左)に施設内を案内して頂きます。)
「大江ノ郷自然牧場 ココガーデン」は、鳥取県八頭郡八頭町に位置し、(有)ひよこカンパニーが
運営されています。こちらでは、養鶏業、鶏卵販売の他、食品・洋菓子加工製造販売などを行っ
ていて、このうち、養鶏・鶏卵販売が売り上げの約6割を占めており、その主力は通信販売だとい
います。「農業テーマパーク創造」を目指す同社では、「製造」「販売」「提供」「体験・食育」
が一体となった複合施設を建設し、地域の雇用創出と農業活性化を図るとともに、地域の魅力や農
と食の大切さを発信するシンボルとして、2020年をめどに来場者年間30万人とすることが目
標だそうです。週末ともなると、各地から店舗とカフェに多数のお客が集まり、現在、年間で10
万人が訪れるといいます。非正規を含めて160人と、地元雇用にも貢献している様子です。平成
25年度6次産業化優良事例表彰にて、食料産業局長賞を受賞したとの事。
(名物のバウムクーヘン作り体験です。特製の生地を何層にも重ね、クルクルと焼いていきます。)
また、こちらは、平成26年11月に改正された地域再生法の特例を活用した全国初の農地転用事
例として有名です。通常、農地は営農状況や市街化状況などで5種類に分類されており、10㌶以
上のまとまった農地や土地改良事業の対象になるなど良好な営農条件を備えている農地は、原則と
して転用が許可されない第一種農地に指定されています。このように、同牧場は周囲を第一種農地
に囲まれていたわけですが、八頭町の地域再生計画が内閣府に認定され地域再生法の特例で周辺農
地を駐車場などに転用しています。
(NPO智頭町森のようちえんまるたんぼうの西村代表(右)。)
新田サドベリースクールは智頭町新田地区をフィールドに、同NPOが運営されているフリースク
ールです。こちらでは地区の森林などをフィールドに対象年齢6歳~18歳の子供たちの主体性を
尊重する学びの場となっています。そうすることで子供たちが自分で考え判断し、解決する力を身
に付けられるといいます。また、子供たちの興味に合わせて外部講師も呼ぶといいます。
私は、かねてから田舎でのびのび育てることが子供の自由な発想を生み、能力を育てると考えて
おりまして、自然豊かな森を活用して、たくましく自主的・主体的な子供たちを育もうとする施設
の理念に共感を致しました。また、以上のような教育環境が広く共感を得られているようで、全国
から移住者も増えているほか海外からも視察にこられる方もいらっしゃるという話を伺い、感心致
しました。
銘建工業は、1923年に創業した製材所で集成材製造のノウハウがあったことから、2010年
からCLTの製造をはじめ、2016年4月に国内初のCLT専用工場を建設しています。
この CLTとは、「クロス・ラミネイティド・ティンバー」の略で、ひき板を繊維方向が直交する
ように積層接着した木材製品のことで、優れた断熱性・耐震性や高い省エネルギー効果、シンプル
な加工方法等から、各方面で使われています。例えば、福島県の復興公営住宅にも活用されてお
り、今後の木材の需要拡大に期待され、海外への輸出にも視野に入れているそうです。
また、今回は併設する真庭バイオマス発電所にもお邪魔を致しました(↓)。こちらでは、上述の製材
所や林地残材から発生する製材端材や森林から発生する切り捨て間伐材、樹皮等を収集・集積し、
チップ化したうえで、バイオマス発電用燃料として安定的に供給しています。森林面積割合が約8
割を占め、林業が主要産業である真庭市が、上記の銘建工業や真庭森林組合など林業・木材業関係
者とともに設立し、平成27年4月より運転開始した発電所です。
発電能力は国内最大級の1万KMであり、年間発電量は一般家庭2万2千世帯分に相当するそう
で、年間約23億円を売り上げているそうです。そして、こちらではバイオマスツアーも企画さ
れ、年間2500人を超える集客があり、観光振興にも期待されています。
以上。