北国街道は、北陸と近畿を結ぶ陸路として、古くから開けた街道で、木之本北国街道は、古い商家
や造り酒屋からなる町並みが広がり、宿場町として賑わったかつての情景を残しています。ただ、
近年では、若年層人口の急激な減少や高齢化により、まち全体が空洞化する現象が進んでおり、こ
うした状況の中で、木之本宿が元気を取り戻し、徒前の活気ある地域になるような取組をされてい
ると地域住民の方から伺いました。例えば、地元商工会は「夕涼み横丁」など「まちあるき」をコ
ンセプトにしたPRを実施する等、観光客の誘致に取り組まれています。以下にいくつか、街道の
中の画期的な取組を取り上げます。
Book Cafe すくらむ(住暮楽)は、2016年6月18日にオープンした、主婦や会社員など、木之
本町を中心にまちづくり活動をしている女性グループ「すくらむ」が「食・人・本のまちづくり」
をコンセプトに立ち上げたブックカフェで、木之本町中心部の地蔵坂にある築100年以上の古民
家を活用し、リノベーションを行ったものです。そのリノベーションにおいては、下水道や畳、外
壁などの改修のためクラウドファンディングを活用し、目標額の1.6倍となる約90万円を集め
たといいます。
こちらでは、郷土料理のランチを提供するほか、古本を並べ、貸し出しも行っています。また、
「やりたいことに挑戦できるところ」として、「ワンデイシェフ」という面白い取組を行っていま
す。これは、自然が溢れ、豊かな食材が揃う木之本において、プロだけではなくごく一般的な人で
も料理の腕に自信のある方などを対象に、住暮楽のキッチンを貸し出しカフェを営業してもらうと
いう試みです。食と本をツールに、世代や地域を超えて人と人がつながるスペースを提供している
のです。他にも、才能ある画家や陶芸家などのアーティスト向けにも、展示スペースとしての貸し
出しも行っているそうです。こうしたスタートアップのチャレンジを応援できる環境が揃っていま
す。
空き家の増加とともに、高齢化、核家族化が進み、コミュニティ不足になっていた宿場町・木之本
を救うため、まさに自助の精神で動き出した「すくらむ」の皆さんの古民家活用の素晴らしい事
例でありました。
(店内で三日月滋賀県知事、藤井長浜市長と意見交換をします)
(「すくらむ」の皆様とお店の前で。)
木之本地蔵院は、眼病平癒の仏さまとして知られる時宗の寺であり、境内に立つ6メートルの地蔵
院は日本三大地蔵の一つとされ、秘仏である本尊を模しています。寺の歴史は古く、空海、木曽義
仲、足利尊氏、足利義昭が参拝した記録もあり、賤ヶ岳の合戦では秀吉が陣を置いたといわれてい
ます。毎年8月の「大縁日」には、多くの露店と全国各地からの参拝客で大きな賑わいをみせてい
るそうです。(観光情報サイトより引用↓)
(特別に蔵の中を見せていただきました)
(うだつのある当時の面影がしっかりと残っていました。)
きのもと交遊館は、昭和初期に建てられた洋風建築の旧滋賀銀行の建物を改装したもので、まちの
活性化と地域のみなさまや、まちを訪れる方との交流や、地域文化の発信基地として利用されてい
るようです。
こちらには様々な催しを開催できるスペースがあり、商店街のイベントや様々な発表会、展示会や
音楽界、地域の研修会や会議等も行われている拠点施設として活用されているそうです。大河ドラ
マ「軍師官兵衛」の放送にあわせ、「黒田官兵衛博覧会」の会場としても活用されたとのこと。
そして、こちらでは、長浜北商工会青年部(街道での事業者の方々)などと、意見交換をさせていた
だきました。中には、北海道など移住者の方もおり、自治体を含めた移住促進施策にも期待をしま
す。
今回は特に、まちなかの空き家、空き店舗の活用に関する苦労話や木之本北国街道の活性化に関す
る取組みもお伺いをしました。私からもシティマネージャー活用の提案や以前視察をしました、宮
崎県油津商店街の事例を取り上げさせていただきました。やはり、これまで私が視察してきた好事
例であれば、皆さんにも伝わりやすく好感触でありました。
(まず、その歴史ある外観に驚かされます。)
(今回は、地域住民の方々との意見交換の場を設けていただきました。)
向源寺は、浄土真宗の寺院で、天平8年(736年)に建立をされています。こちらは国宝の十一面
観音像を有することで知られております。日本全国に7体ある国宝十一面観音の中でも最も美しい
とされ、日本彫刻史上の最高傑作とされています。
「県指定の十一面観音立像は、小像ながら王朝時代の装飾美をよく表現した像です。着衣には切金
で美しい文様が繊細華麗に施され、伏し目がちの穏やかな表情や両頬の豊かな丸い相好、細身でな
で肩の穏やかなスタイルなどに平安時代末期・十二世紀の特徴がよく表れています。(観光情報サイ
トより http://kitabiwako.jp/spot/spot_947/)」
特に、この北琵琶湖地域は、観音の里とされており、長浜市には「観音さま」が130躯以上、種
類も豊富です。戦国の乱世、幾多の戦乱や災害の中で、川や池、田んぼなどに沈め、住民が命がけ
で守ったという逸話話は数知れないといいます。このように、長浜は、地域住民が守る「村持ち」
(奈良・京都は大寺社が守る「寺持ち」)で、住民の生活や人生、地域の風土と結びついた独自の
「観音文化」を形成する、文化により地方創生を目指しています。
観音を地域ブランドの軸に置き、地域自らがその価値を認識し、地域が認める魅力として磨き上
げ、外からの集客と地域との交流を活発化させ、持続的な地域振興をはかるのです。
例えば、琵琶湖を模してつくられたとされる上の不忍の池のほとりに拠点「びわ湖長浜 KANN
ON HOUSE」を設け、情報発信をされています。こちらは、地方創生加速化交付金で支援を
させていただいております。他にも、地元の長浜城歴史博物館(※)での展示会や、講演会、東京で
も「観音展」を二度ほど開催しており、東京ではのべ5万人の来場者数があったといいます。
「まち・ひと・しごと総合戦略」に新たに盛り込んだ、「郷土への誇り・愛着」「地方生活の魅
力」を再発見し、ライフスタイルの見つめなおしていこうという国の方針にも合致した取組であり
ます。
(※)長浜城歴史博物館・・・長浜城の内部で公開されている歴史博物館で、「湖北・長浜のあゆみ」・「秀吉と長浜」をテーマに、湖北地域の多彩な歴史文化に関する資料を展示しており、湖北を一望する展望台では、周辺の戦国遺跡を眺望でき、長浜の重要性を改めて実感できます。長浜城は、戦国時代末期に豊臣秀吉が城主として過ごした城であり、廃城後の再興においては、多くの市民から多額の浄財(4億3千万円)が寄せられたほか、同館友の会は、展示資料の説明や案内、清掃活動などで博物館を支えており、まさに市民とともに歩んできた博物館(城)といえます。
(長浜観光協会の観光情報サイトより引用)
黒壁スクエアは、長浜市旧市街にある、伝統的建造物郡を生かした観光スポットで、江戸時代から
明治時代の和風建造物が今も残り、情緒ある町並みとその古建築を活用したギャラリー、レストラ
ン、カフェ等が集積しています。有名スポットである、黒壁ガラス館の前身は、明治時代に建てら
れた旧国立百三十銀行長浜支店です。
以前は、市街地の日曜日昼下がり時間通行量が「人4人と犬1匹」と評されるほど著しく疲弊した
危機的な状況を打破したのが、第三セクター「株式会社黒壁」によるまちづくりであったそうで
す。長浜市と(株)黒壁が連携し、黒壁に代表される古い建物を活かして連続性のある街並みを再生
するとともに、ガラス工芸品等の創業等を促進し、来街者の増加、収益の拡大、空き店舗等の解消
等を実現しています。(工芸品等の売上を空き店舗の改装費用等の街並み形成に活用し、事業を拡大
したほか、民間事業者の新規出店を誘発しています)
これによりまして、約230軒程の商店街のシャッターが順次開き始め、西日本最大のガラス技術
の展示エリア、北国街道のレトロな街並み、そして、大通寺の門前町と3つの情景がうまくミック
スされ、疲弊した商店街が多くの観光客が訪れる商店街として見事に再生しております。これは、
地元商店街の活性化にも大きく貢献し、その経済効果は176億円とも言われ、経済産業省中小企
業庁「がんばる商店街77選」に選ばれる等、その取り組みは高い評価を受けています。
そして、黒壁エリアの賑わいを周辺エリアに拡大するため、まちづくり会社「長浜まちづくり株式
会社」により、様々なエリアマネジメント活動が実践され、創業・移住を支援しています。例え
ば、町家再生バンクによる移住促進・古民家再生プロジェクトです。
町家再生バンクとは、長浜まちづくり(株)が金融機関と連携して、町家再生のサポート体制を構築
し、約11軒の空き町家を維持管理する「風通し」を行いながら、移住希望者への橋渡しをし、町
家を現代の暮らしの器として再生する取組みです。(平成28年11月時点で7物件を改修し、22
人が移住しています)
(黒壁のまちづくりについて説明を受けます。)
(ガラス館の中を拝見します)
(特徴ある黒壁の街並みが広がります)
また、長浜まちづくり(株)が市の補助金や金融機関からの低利融資を賃金に、そうした空き家をシ
ェアハウスに改修・再生するという取組も行っています。外国人の入居も見据え、市教育委員会と
連携し、外国指導助手など、4人が入居。試行的取組であり、今後はこの成功例をまちなかで横展
開していくそうです。
加えて、長浜まちづくり株式会社では、飲食店の出店トライアルを行うキッチンスペースや、オフ
ィスに使えるワーキングスペースを備えた「湖北の暮らし案内所 どんどん」を昨年4月に設置
し、若者の創業をも支援しています。
黒壁スクエア周辺に限らず、全国にはこうした地域資源を有効活用した取組が数多く存在するの
で、各地域が競い合って、地方創生を盛り上げていただきたいと思います。
今回の視察では運よく、長浜曳山祭りの様子を拝見することができました。長浜曳山祭りは、京都
の祇園祭り、岐阜県の高山祭りと並んで、日本三大山車祭りの一つであり、安土桃山時代、長浜城
主の羽柴秀吉(のちの豊臣秀吉)に初めての男の子が生まれた際、喜んだ秀吉が城下の人々に金を振
る舞い、町民がこれをもとに曳山を造って八幡宮の祭礼に引き回したのが始まりとされているそう
です。本年は、ユネスコ無形文化遺産に登録されたことを記念して、「曳山」全13基が長濱八幡
宮御旅所に勢ぞろいします。そこに、13基が揃うのは2006年以来11年ぶりのことだそうで
す。
(13基の揃い踏みは圧巻です。生憎の雨模様でしたが、多くの人でにぎわっておりました。)
ご存じ、老舗和菓子屋の「たねや」です。近江八幡の地を離れることなく、140年余の歴史があ
ります。今回は、2015年1月にオープンしました、「たねや」のグループフラッグシップ店、
「ラ・コリーナ近江八幡」にお邪魔させていただきました。
こちらは、「自然を愛し、自然に学び、人々が集う繋がりの場」としてオープンし、広々とした吹
き抜け空間の1階に和洋菓子の売り場が並びます。平成27年度の観光入込客数は約162万人と
いいます。(滋賀県観光入込客統計調査書より)
敷地には、八幡山から連なる丘に、豊かな木々とともに田んぼや畑が広がり、屋根が芝で覆われて
いるように、建物も完全にその自然に溶けこむようなつくりになっています。
このような環境の中に、和・洋菓子のメインショップをはじめ、たねや農藝(※)、本社、飲食店、
マルシェ、専門ショップ、パンショップなどが併設されています。
(※)たねや農藝・・・素晴らしいお菓子を作るために、原材料となる農産物など社員の素材を見る目を養おうと約20年から手がけている農園。今では、単に作業をするだけでなく、研究など農藝士を育てる取組を行い、農という大切さを改めて抜本的に見直し、農に対するこだわりをどんどん出していける人間を育てるべくはじまったといいます。自然の恵みに感謝をしながら、原料となるお米一粒一粒など、長い時間と多くの手間をかけてできたものを、お客さんのもとに届けていくという姿勢こそ農に含まれているというのです。他にはまねできない、信念があります。
(草屋根と呼ばれる、屋根一面が芝で覆われたメインショップです。ラ・コリーナHPより http://taneya.jp/la_collina/about.html)
(同HPより、全体図。)
(敷地内には、豊かな自然が広がります)
(併設の工房でカステラが焼き上がる様子を見ることができます)
また、山本昌仁CEOは、次の代(跡継ぎ)をつくるため、後継者育成を通じた、滋賀県が住みたく
なるような環境づくり、地域貢献に取り組まれています。例えば、従業員向けのアカデミー(職業訓
練校)や保育園、そして同「たねや農藝」等が充実しており、何より、業界の底上げのため職業訓練
校に関しては「ライバル」といわれるようなお店も指導をしているそうです。「真似されてこそホ
ンモノ」だというのです。
山本CEOはかねてより、「後継者の育成で地域貢献を行い、いま世間から一時的に預かっている
だけの「たねや」を、今後はより成熟させ世の中へお返ししていく。」と発信されています。
こうした想いは、近江商人の買い手よし、売り手よし、世間よしの「三方よし」の考え方が根底に
あるようです。売り手の都合だけで商売をするのでは無く、買い手が「買ってよかった」と心から
満足し、そして、それで終わらず、更に社会貢献にもつなげていくよう取り組んでいるのです。
これは、私がこれまで発信してまいりました、「公益資本主義」の考え方そのものだと思います。
今後も、自然に学ぶ町づくりという大きなビジョンを掲げ、継続的な地域貢献に取組んでいただき
たいと思います。
(館内の壁には生菓子、焼き菓子、など和菓子づくりに使われる木型が展示されていました。↓)
2016年3月18日、「総合リゾートホテル ラフォーレ琵琶湖」内にオープンした、琵琶湖を
一周をする「ビワイチ」のサイクリング拠点(株式会社ジャイアント)で、初心者から上級者、 国内
外の旅行者まで多様なサイクリストが利用しているようです。北湖と南湖を分ける琵琶湖大橋の東
側、琵琶湖周回ルートの中心的なポイントに位置し、しまなみ海道のジャイアントストア今治と尾
道に次ぐ、スポーツレンタル事業を展開するストアです。
また、熱心な宮本市長のもと、守山市も自転車によるまちづくりとして、守山市民を対象に自転車
購入の上限2万円の補助(なんと、スポーツタイプだけではなくお年寄り向けの三輪車や子育て世帯
向けの電動アシストが対象。)を行うほか、官民一体となって自転車を活用したまちづくり(案内表
示や自転車専用レーンなどの設置)を進めています。これだけ大きい琵琶湖ですので、自転車で一周
するビワイチの出発・ゴールとしてサイクリストに選ばれるように、休憩や宿泊もできる拠点施設
の整備も進められています。そして、滋賀県庁でも昨年からビワイチの環境整備を本格化し、今年
からは自転車での琵琶湖観光を進める「ビワイチ推進室」を設置しています。今後は、ビワイチブ
ランドを確立し、インバウンドを含めた観光客の増加・観光客の消費・観光事業者の民間投資を呼
び込み、地方創生を進めるべく、地方創生加速化交付金等を活用し、情報提供拠点の整備などを含
めて走行環境整備や観光誘客を一体的に推進していくとしています。ICTを利用した整備も行っ
ていくそうですが、自転車を軸とした更なる観光振興に取り組んでいただきたいと思います。
(守山市の宮本和宏市長です。)
(宮本市長、ラフォーレ琵琶湖の澤井支配人、お店の佐藤店長、ご地元の武村展英衆議院議員と)
「湖と人間」をテーマとした博物館で、「琵琶湖のおいたち」をはじめとした展示や琵琶湖や世界
の湖の魚を展示する水族展示があり、屋外展示やレストラン、ショップなども併設されています。
このように、内水面博物館というだけではなく、博物館と水族館が合体しているところは、全国で
も珍しいといいます。昨年7月のリニューアルオープンの際に、ロシアのバイカル湖の固有種で世
界で唯一、淡水に生息する「バイカルアザラシ」が2頭「入居」したことでも話題になりました。
今回は、地方創生拠点整備交付金等の交付金による、対話と交流を促す交流空間のリニューアルや
次世代のための教育拠点など、新たな取組を拝見させていただきました。今後は、観光交流、教育
旅行の拠点として、滋賀県への集客を引率していく事を期待しております。
大津市の琵琶湖環境科学研究センターは、「政府関係機関移転基本方針」に基づき、地方創生交付
金を活用し、備品、研究機器を整備したうえで、国立研究開発法人国立環境研究所琵琶湖分室を設
置し、「国立環境研究所」の一部機能移転を実施しています。開設は、地方創生における政府機関
の一部機能移転の一環であります。琵琶湖という日本一の環境があり、湖沼環境研究をリードする
国立環境研究所に来てもらうことは地元としても長年の悲願であったといいます。
今後は、国立環境研究所と滋賀県琵琶湖環境科学研究センターとの研究開発などの連携強化を図
り、共同研究の成果等を行政施策や水環境ビジネスに活かす産学官連携による地方創生のプロジェ
クトに期待をしております。
(内藤センター長、今井分室長より説明を受けます。)
これまで、全国で開催してまいりました「地方創生セミナー」ですが、今回は、滋賀県びわ湖大津
プリンスホテルにて開催してまいりました。こちらでは、これまで同様、「地方創生・加速の戦略
~全国の優良事例~」と題し、私が大臣就任後約9か月間で、全国で見てまいりました地方創生の
優良事例を中心に1時間講演してまいりました。また、今回はそれだけではなく、滋賀県の事例発
表ということで、神保真珠商店の杉山知子様と東近江市の山口美知子様にご講演をいただきまし
た。以下に、概要を紹介いたします。
東近江市では、地域の「志あるお金」を、この地域に住みたいと願う次世代を育てる活動や若者が
働きたいと思う仕事づくりなど、社会的に意義のある活動に活かすため、「東近江三方よし基金」
を設立したといいます。
こちらは、志のある寄付や、休眠預金のお金を基金へ一旦入れて、そこから、これからの未来をつ
くっていこうとする様々な活動をさらに継続・拡大していけるように、融資や投資、そして助成な
どを行っていくものだそうです。
また、地元の金融機関と連携しながら、進めていくことも重要で、それにより地域で活動する様々
な団体が融資が受けやすくなり、投資の商品の一つとして販売をしてもらったりなどということが
できるようになるといいます。
今回は、そうした東近江三方よし基金の創設を通した、資金調達や活用事例 、その将来像などを分
かりやすく教えて下さいました。まさに、地域の資源を活用し、東近江商人からの「公共の精神」
を受け継いで、地域の中でお金を回して地域に還元していくことが重要です。
かつて、「びわ湖真珠」は欧米などで高く評価されるなど、昭和50年に最盛期を迎えた後、環境
の悪化や水質汚染などにより貝が十分に育たないという厳しい「冬」の時代が長く続いたといいま
す。そうした厳しい状況の中で諦めることなく、母貝の改良や環境の改善に真摯に向き合った生産
者たちの努力と高度な養殖技術により、母貝の改良が進み、今現在琵琶湖には美しい真珠が育って
いるそうです。
私もお聞きして驚いたのですが、びわ湖真珠は、池蝶貝という母貝を育てるのに三年、その後、真
珠を巻くまでに更に三年という時間を要するそうで、その中でもちょっとした環境の変化が、貝の
育生に影響しており、さらに、殻を開いてみるまでその状態はわからないというのです。生産者の
手によって色や形が作られた後は、その環境、つまり人の手が及ばない琵琶湖の環境の中で、長い
年月をかけて、独特の美しさと照りが生まれ、真珠は完成するのです。こうして生まれた、びわ湖
真珠は、色、形、照り、どれ一つとして同じもののない、個性的な真珠ばかりだといいます。今
回、こうした背景などを聞く中で、世の女性たちが魅せられる真珠というものの素晴らしさがわか
ったような気がします。
中でも、今回お話を伺った、神保真珠商店の杉山さんは、「以前のびわ湖真珠のマイナス点を、全
てプラスに変えられるのではないか」と、発想の転換をして、素晴らしい人との繋がりで挑戦して
いる事柄を教えて下さいました。例えば、「昔のように多く真珠が取れない」というマイナスポイ
ントを、「希少価値があがる」とプラスに捉えます。同様に、「中国産の淡水真珠と比べ価格が髙
い」ではなく、「琵琶湖産であることをより強く認識できる」や「びわ湖真珠を知っている人が少
ない」を「はじめて知る驚きがある」などという発想の転換です。また、これからの挑戦というこ
とで、2つの視点をあげられていました。
まず、店頭や催事での販売の利益を養殖家へ還元し、それにより後継者の育成へつなげてもらうと
いった、雇用を生み出す好循環をつくり出していくこと、そして、都心での発信やクリエイター、
アーティストと連携してクリエイティブにこだわることで、ブランド価値を上げ、びわ湖真珠を資
源に滋賀県を盛り上げていくということです。
こうした杉山さんの取組やびわ湖真珠の背景に共感した、デザイナーやメディアによって、今で
は、「The Wonder 500」(※)等に選定されるなど全国的に周知され、大成功をおさめておられま
す。
(※)「The Wonder 500」・・・クールジャパン政策のもと「世界にまだ知られていない、日本が誇るべきすぐれた地方産品」を発掘し海外に広く伝えていくプロジェクトで、日本を代表する30人のプロデューサーによる“目利き”と、一般公募によって、全国47都道府県より合計500商材を選んでいます。
以上、二日間の視察内容を簡単に紹介させていただきました。各地で話にでてきたのは、やはり近
江商人の稼ぐだけではない、「三方よし」との考え方です。買い手に喜んでもらうことはもちろ
ん、社会貢献ができてこそ良い商売だ、という考え方だと思いますが、この、社会・地域との関わ
りを重視する考え方は「自助の精神」に加え、地方創生を成功させる重要な鍵になると考えます。
「三方よし」の考え方が根付いてきた滋賀県で、今後、全国の優良事例でとなる地方創生が数多く
成し遂げられていくのではないかと確信しております。今後に大いに期待しております。