ダボス会議会場にて
2017年、新年を迎えて早々1月15日から19日にかけまして、フランスとスイスに出張して
まいりました。フランスでは、国立公文書館のパリ館とピエールフィット館を視察したほか、シャ
ールル・プティトリ、バルビゾン市の副市長と地域の特徴を生かした観光の在り方、景観維持政策
等について、意見交換を行いました。
国立公文書館では、歴史的書物は徹底的な管理のもと保管されており、パリ館ではフランス革命以
前の文書およびパリ市公証人の文書等を保管しており、一番古いものは632年のものだそうで
す。何重にも鉄扉で閉ざされた金庫には、キログラムやメートルの原器、ドゴール元大統領署名入
りのフランス共和国憲法の原本、等が保存されています。
全ての公文書はマイクロフィルムになっており、金庫に厳重に保管されている重要な書類について
は電子化もされているようです。
また、フランスのシリュグ経済財務大臣付産業担当長官と会談し、地方経済活性化、デジタル革命
及び環境革命、原子力、Brexit等について、意見交換を行いました。特に会談の中で、企業が地域か
ら撤退する場合に、その企業は代わりに地域振興策について相応の負担をしなければならないとい
う独自規制はとても興味深く、後日事務方での情報共有をお願いしたところです。
(シュリグ仏経済財務大臣付産業担当長官)
それから、スイスではワールド・エコノミック・フォーラム、ダボス会議に出席し、まち・ひと・
しごと創生担当大臣として、日本の経験や取組を世界の有識者と共有するとともに、意見交換を行
いました。全世界より3000人がダボスに集まり、日本人は100人程で、各国首脳クラスは5
0人程だそうです。
バイデン米国副大統領(当時)やケリー米国国務長官(当時)など数日後には政府から退かれる方も出席
していた一方で、メイ英国首相や習近平中国国家主席なども登壇し、特に習主席は、2000人も
の聴衆を集めて、世界が抱える諸問題の責任を「グローバル化」に転嫁したり、世界が保護主義に
向かうことのないよう自由貿易の重要性を訴えていたのが印象的でした。
ダボス会議では、私は二つのプログラム、「資本主義再考」、もう一つは、「中国における中間層
の成長」に参加致しました。例えば、最初の「資本主義再考」では、私は、「欧米型の株主資本主
義、つまり利益を全部株主が独占して取ってしまうやり方が余りに極端になり過ぎて、それが今日
の所得格差を生み、地方の疲弊を生んでいる」との指摘を致しました。そして、マックス・ウェー
バーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」を引用し、「倫理観を持たない資本主義
は問題で、日本型の公益資本主義のような、会社は単に短期的な利益を求めた株主だけのものでは
なく社会の公器であって、従業員、取引先、地域社会、場合によっては地球全体に対しても貢献を
考えなければならない。そのような資本主義でないと、正に所得格差の増大、地方の疲弊などの深
刻な社会問題にもつながるのではないか。そういう考え方を持った資本主義で臨むことで、初めて
資本が地域に行く事ができ、地方創生につながるのではないか」というような観点の話を申し上げ
ました。
(「資本主義再考」にはパネリストとして参加ー写真上)
例えば、東レは赤字を続けながらも40年をかけて炭素繊維を開発したそうですが
デュポン社(米国・化学大手)ではそうはいかないでしょう。短期的な株主ウケの良い政策ではな
く、中長期的な視点をもった公益資本主義的な考え方が必要だと私からお話しました。
そして、2つめの「中国における中間層の成長」のディスカッションにおいて、中国経済について
は、正に中間層が増えてきていると言われているものの、私は地方創生担当大臣として「地方創生
の大きなポイントは観光振興であり、その観光を地域で進める上で、中国からの観光客がどんどん
来てもらうということは非常に有り難いで、正に地域振興につながる話なので、是非しっかりした
中間層を中国において作ってもらいたい」というお話を申し上げました
そして、「そのためには、今の施策が本当に中国の中間層を増やすような政策になっているのか
どうかということは、もう少し考え直す必要があるのではないか」とも申し上げました。やはり経
済政策として輸出に頼るための国有企業向けの融資や投資を増やしており、必ずしも消費が増える
よう促し、中間層が裨益するような政策にはなっていないところがあるのではないか、という点で
す。 そうした点を考慮していただいて、より中間層を増やして、日本にも観光客として来て頂きた
いですし、観光だけではなくて、経済活動、あるいは資本移動についても考えていただきたいと、
そのようなお話を申し上げました。
これまで、ダボス会議は参加する自分たちがエスタブリッシュメントであり世界のリーダーである
という意識で開催し、自信に満ち溢れていたものでした。しかし、昨年からの世界の動きが示す通
り、リーダーレスであり、「リーダーではなかった」人々が台頭する中でダボス会議のあり方も変
質しつつあると感じます。その中で、例えば日本としても、「倫理観」や「道徳」、そして先ほど
申し上げたような公益資本主義のあり方などを主張し、発信していけばより世界でのポジションも
確立していけるのではないでしょうか。ある意味、危機をむかえたダボス会議は、まさに、新しい
価値であり、方向性を今後示していけるかがキーポイントになってくるでしょう。