幸ちゃん物語 第39話 (北九州地域再活性化私案編)
地域開発
~企業家精神の掘り起こし~
従来の地域開発戦略は、大企業の誘致に重点が置かれてきた。ところが、経済が重厚長大産業からハイテク、サービス産業へと構造変化するに伴い、大企業は、地域経済発展の担い手としての地位を降りざるを得なくなってきた。また、大企業の特性として、次第に組織が硬直化しリスクを避けるようになってくる。その結果、先のローカル・ホロニックスのところで示したように、大企業に依存した地域システムは、情報をつくり出すという働きを失い活力を失われてくるようになる。
そこで、地域の活力を取り戻すため地域内に埋もれている”企業家精神”を掘り起こし、その開発に伴う経済発展を期待する、いわば”自家製の経済”の構築を目指そうという考え方が生まれてきた。
その1つの手法として、最近アメリカで盛んなのが、ビジネス・インキュベーターである。ビジネス・インキュベーターとは、インキュベーター(ふ化する)の言葉が示すように、スタート・アップを図る新企業家に対し、フレキシブルな事業スペースを貸与するとともに、さまざまなビジネス・サービスや技術コンサルティングなどを提供し、事業の発展を支援する仕組みである。
インキュベーターは、ここ2、3年で米国各地に急速に普及し、これまでに全米100ヵ所以上に設立されている。その増勢は現在も続いており、向こう5年内には全米に1000件以上のインキュベーターが設立されるとの見方もある。こうしたインキュベーター設立ラッシュにより”インキュベーター現象”という言葉も使われるようになってきている。一般的にスタート・アップを図る新企業家は、創業の過程でさまざまな困難に直面する。適当な事業スペースの確保、従業員の雇用・教育、事業の管理・運営、資金の調達などである。
実際アメリカでは毎年60~70万の新規企業が設立されるが、その3分の2はこうしたハードルを乗り越えられず、設立5年以内に消滅していく。優れた技術をもつ潜在的な企業家が同時に、製品を商業化し企業を管理する能力を、もち合わせていることは極めて稀なのである。だから、こうした、企業家予備軍に企業の経営、管理などに関する助手の手を差しのべる仕組みをつくれば、スタート・アップ企業のサバイバルの確率は大きく高まる。このような考え方からビジネス・インキュベーターのコンセプトが生まれてきたのである。
このインキュベーターのアイデアは全く新しい考え方ではない。この仕組みで成功した一例として、カリフォルニアの有名なシリコンバレーがある。
スタンフォード大学のターマン教授は、ヒューレット・パッカード社の創業者であるヒューレットとパッカードに対し、専門とする電子工学上のアドバイスはもとより、経営指導から資金調達の援助まで行なって彼らの事業を軌道に乗せた。これが、シリコンバレーの始まりとなったのである。
より組織的な形でインキュベーターが設立されるようになったのは、1970年代の後半になってからである。同じ頃、イギリスでもインキュベーターが設立されるようになった。このインキュベーターのアイデアにいち早く目をつけたのは、不況の真っただなかにいたアメリカ北東部の諸地域だった。重厚長大のスモーク・スタック産業を抱え高い失業率に悩んだこの地域の人々にとって、インキュベーターは最後の救世主であった。企業や工場は、サン・ベルトへと逃げ出す一方だ。もはや大企業を当てにすることはできない。「新しいビジネスをつくり出すことにより、新しい雇用を生み出そう」、これを合言葉としてペンシルベニア、イリノイ、ミネソタなどの各地にインキュベーターが相次いで設立された。一昨年、ピッツバーグを訪れたとき、もっとも印象深かったのが、ピッツバーグ・ハイテク・カウンセルやエンタープライズ・コーポレーションなどのインキュベーター組織であった。これは、日本でも必ず応用できると思った。