幸ちゃん物語 第46話 (北九州地域再活性化私案編)
農水産業の再生
~よみがえる水産業~
水産業においてもハイテク化、ソフト化の新しい動きがみられる。
大分県の米水津村では、イワシの丸干しに挑戦、年間売上高で二十億円を越え、本場の千葉県九十九里に迫る西日本一のシェアを誇るまでにいたっている。その秘密は、村の青年達があみ出した協同出荷方式にある。
海産物の流通は複雑で、通常仕入れ、販売に浜問屋という仲買い業者が介在する。以前は、米水津も浜問屋に頼っていたが、それでは浜問屋に市場をかき回されるばかりであった。
「流通革命を起こさないかぎり、米水津の成長はありえない」と若者が立ち上がり、浜問屋を外し自分たちの手で出荷することにしたのである。東京、大阪、名古屋の大市場へ、毎日五台の冷凍車を定期便で走らせる。これによって、市場の好みに品質を合わせ、生産過剰にならないようコントロールしながら出荷できるようになった。
関東、関西、東海という地域によって、大衆の味覚は異なる。イワシの丸干し一つにも微妙な味の違いを彼らは工夫してきた。その技術上の違いを各工場がそれぞれもつ。出荷は共同でも、こと技術になると彼らは一線を画す技術を持つ。
丸干しに「米水津」というブランドはなく、工場の名前がブランドになっている。あえてそうしているのは、工場が米水津の名前に寄りかかり技術に甘えがでるからである。外に対しては横のつながりの強い彼らも、工場のなかでは激しいライバル心を燃やし品質を競う。そのライバル心が、米水津の品質を高めていった。今日では、米水津産の丸干しは、市場で高品質のレッテルがつき、米水津産が市場価格を決めるといわれるほどの信用を得ているのである。
また大分県ではこうした技術革新の延長線上に、マリノポリスと呼ばれる海洋牧場の実験を行っている。このマリノポリスでは、海に浮かべた給餌ロボットが音波を発信して餌をまく。稚魚のときに放流した魚が音響馴致して、ロボットのまわりを回遊しながら成長する。回遊状況が数字データになって、県庁の光通信システムを利用したコントロール室に送られてくる。このシステムによって陸上で海中をコントロールしながら、魚を人口培養することができる。これはエレクトロニクスとバイオメカトロニクスの先端技術を駆使して水産業を発展させようという試みである。
海洋牧場の周辺には、水産工学研究所、種苗センター、加工場、魚市場、フィッシャリーズ・カレッジ、海洋博物館などを建設予定。海はマリンスポーツなどのレジャーゾーン、後背の山は保養施設、別荘などのリゾートゾーンと、水産振興と観光開発を連動させようと構想している。
北九州市から京築にいたる地域は、周防灘沿いの有数の海岸線に恵まれている。水産業といい、マリンスポーツなどのレジャー産業といいその可能性は無限である。現在、水産業は沿海漁業を中心に、カニ、エビ、カキ、ノリなどの養殖が試みられている。それを担う若者達の間には、創意工夫をしようという気運を盛り上がってきている。
今後は、産・官・学が一体となって、そうした新しい芽を育てていくことが必要である。そして、周防灘に面した福岡県の東海岸沿い一帯に、あるところはマリンスポーツ基地、あるところは海洋牧場といった具合にバラエティーをもちつつ、全体として調和がとれた開発を考えていくことが重要である。