10月28日、30日には、大阪、東京の2会場で、日米ホスピタリティマネジメントサミットが開催され、大成功に終え
ることができました。米国大阪・神戸総領事館及び場所を提供して頂くだけでなく運営上も中核となって頂いた関西
外国語大学の理事長はじめスタッフの皆さん、特にステファン・ザーカー先生、ジェイ・ビグス首席領事、ハラル
ド・ブレイマン領事に心から感謝申し上げます。
国策としてインバウンドを推進する中で、最大の課題が、これを担う人材の育成です。ところが、残念なことに、これ
までの日本の大学の観光教育は人文学的な語り部学問が中心で、観光産業が要求するニーズと大きくかけ離れていま
した。もはやこのような状態を続ける余裕はなく、本当にホスピタリティ産業をリードできる人材教育が必要であ
り、このためには、既に実績がある米国式のホスピタリティマネジメント教育を導入するしかありません。今回のセ
ミナーはそういう意味で、ホスピタリティ産業における“21世紀の黒船”の役割を果たすものだとも言えます。
私は、今回のサミットが契機となって、日本が観光大国となり得るよう、それを支える人材教育の現場が抜本的に改
革されることを大いに期待しています。今後、文部科学省、国土交通省、経済産業省も、その方向に向けて総力を挙
げ支援して頂けるものと確信しています。
さて、今回のサミットでは冒頭、ご挨拶をさせて頂きました。その文字起こしをこちらでご紹介したいと思います。
是非ご覧ください。
おはようございます。ご紹介頂き感謝申し上げます。
なぜ私が、今回の日米ホスピタリティマネジメントサミットのサポートにあたり、これほどまでわくわ
くしているか、皆さん疑問に思うかもしれません。その理由を簡潔にお教えしたいと思います。
観光学、そしてホスピタリティマネジメントへの私の興味、関わりは、30年前にさかのぼります。私が
財務省へ勤めていた際、1975年にニューヨーク州イサカのコーネル大学・ジョンソンビジネススクール
へMBA留学をしました。ご存じのように、コーネル大学ホテルスクールは、数年前にビジネススクール
によって統合されています。
コーネル大学から帰国した後、私は常に観光産業の可能性に関心を持っていました。そして90年代に
は偶然にも日本で、コーネル大学からの教授陣を招聘したセミナーをいくつか開催し、本日お越しの原
忠之氏は、当時のそのセミナーシリーズでのパートナーでした。そして日本が競争力のある産業で世界
の競争に負け始めている中、日本政府に観光産業へ戦略的な興味関心がほとんどなかった一方で、私は
コーネル大学でのホスピタリティマネジメントプログラムこそ、日本の将来を明るく照らす切り札にな
るべきと思っておりました。
当時の小泉純一郎首相は、さかのぼる事2003年に観光立国を宣言され、観光庁が2008年に設立されま
した。そのような中、私は早くも90年代にはホスピタリティマネジメントセミナーを開催していたので
す。
そして、忘れもしません、2011年には東日本大震災によって日本はとてつもない被害を受けました。そ
の先数年間、私は自民党の観光立国調査会で会長を務めることになるのですが、多くの日本人は、観光
業について関心などありませんでした。私の在職期間中、毎年のインバウンド観光客の数は、2012年の
800万人から、2017年には約3倍に増えています。その間、私は観光業として財源を捻出するための政
策を唱えてきましたが、その成功例の一つが、出国税の適正な実施です。それは結果的に毎年およそ5
億ドルずつの財源を生み、観光庁と文化庁の予算の増加に寄与しています。
もし皆さんが出入国手続きで、新しい装置、新技術など設備投資によってスムースな想いをされていらっしゃったら、それはこの財源から来ているのです。
さて、こうした中で日本は、高いレベルの観光学を提供し始めたアジアで一番の国となりました。もち
ろん、観光学は観光業を扱う学域で有効なものの一つですが、一方で、小さな規模のビジネスレベル、
例えばホテルや旅館(日本の伝統的な一泊二食の宿泊施設)、レストランやテーマパーク、国立公園や博
物館に美術館やDMO、そして会議施設やレンタカー、ランドオペレーターなどあげれば切りがありま
せんが、そのレベルでいかに収益性のあるオペレーションを行い管理していくか、など多数のホスピタ
リティビジネス部門を引っ張っていけるような効果的な人材を育て上げるために、観光学は最適なアプ
ローチではないのかもしれません。
日本では、約770の大学がある中で45の観光学を提供する大学、ホスピタリティカレッジ、学部などが
ありますが、悲しいことに私の知る限り、観光学のそれらのほとんどにおいて、グローバルに競争力の
あるレベルで研究できる、厳密な学問と呼べるものは存在しないと言えるでしょう。おそらく米国から
お越し頂いた教授の皆様はお気づきでしょうが、日本は自然科学、例えばナノテク、生物学、物理学、
化学などですが、この分野では相当な先進国になります。日本は10人のノーベル賞受賞者の輩出国であ
り、彼らの専門的な論文の多くは世界中の研究者によって引用されている通りです。GDPの規模を見て
も日本は上から3番目ですが、レジャー、ホスピタリティ、観光学の分野において日本はかなり下の順
位ですし、世界中の様々な研究の中でほとんど認識されていないでしょう。
皆さんが英語で学術的な原稿、論文を書かないなら、当然英語で書かれたそれに関する最新の専門的な
学術誌など読まないでしょう。それはつまり、日本が観光学やホスピタリティマネジメントの分野にお
いて専門的な学識のトップとして先導していくことが到底出来ないことを表わしています。一度研究者
が最新の学識を享受できなくなるとすると、彼らはかなり前に生み出された“古い“学識によってでしか
教えられません。もちろんその教育を受ける学生もアップデートされないことは言うまでもありませ
ん。
日本の観光・ホスピタリティの研究者の弱点が表れる一方で、対照的に、中国や台湾、韓国などのアジ
アでの研究開発能力の伸長は著しいものがあります。更に悪いことに、日本の観光学やホスピタリティ
分野の教授の多くは、日本で、日本語で、日本人の同僚と話し、Facebookのコメントは全て日本語で
す。つまり、日本の外側で現在進行形で起きていることに気づくチャンスを持ってさえいません。19世
紀、マシューペリー提督による圧力によって取り除かれたと誰もが思っていた、自ら外部と隔絶するよ
うな姿勢をみるのは悲しいものがあります。
専門的な分野の学域において、我々は観光庁を信用すべきなのです。さかのぼること2008年に設立され
た時ですが。初期段階で彼らは世界中の観光学やホスピタリティマネジメントのカリキュラムの研究を
独自に行い、既存の観光学によってもたらされるものではなく、ホスピタリティマネジメントのプログ
ラムによって使われる、観光産業のための人材開発への最適なカリキュラムを結論付けました。
しかしながら、日本の大学はなんとなく、彼ら独自の観光学を主張しました。ただ、彼らは英語であま
り研究論文を書かないので、それは、世界的な研究者によって確認されたり、分析されることがないも
のなのですが。
そのため、グローバルな研究者たちによって分析されることなしに、日本の観光プログラムは彼ら独自
のカリキュラム、主に社会学や人類学のようなものにおしつけられてしまったのです。それはつまり彼
らが教育していこうとするものがしっかりと外的妥当性があるかを裏付けるために必要である様々な数
字や統計的な分析をしばしば避けているということです。
観光庁は、大学側へ彼らの観光学のカリキュラムが様々問題をもっていることを、観光学を受講した卒
業生への調査を集計し明らかにしてきました。その結果の一つをあげますと、その卒業生で観光産業に
従事するのは25%に届いていませんし、観光産業界のニーズと彼らが作り上げたカリキュラムとは深刻
な食い違いがあることが証明されています。しかしながら、そのカリキュラムの不適切さを示した忠告
は、大学の観光学へ深刻な疑念を生じさせることに失敗してきたのです。我々の求めたカリキュラムへ
の変化もなく、我々は10年以上無駄にしてしまいました。
これまで、私がお話したように、政府や自民党は観光産業の更なる発展へ向けて明確なビジョンと定
量的なゴールを見据えています。インバウンド観光客の促進へ向けて、ヨーロッパや北中南米という遠
方より来た、長期滞在者へ向けてマーケティングをしっかりと行っていくことがポイントでした。なぜ
なら、日本へのインバウンド観光客の3/4以上が、アジアの近隣諸国からの短期滞在者が占めているか
らです。
それゆえ、我々は、欧米をはじめとする遠方から来て、地方などあまり有名ではない場所へ訪れようと
する旅行者へ向けて、いかに注力をしていくかを考えなくてはいけません。地方こそ、本格的な文化や
歴史、遺産、そしてローカルフードなどに溢れているからです。観光立国の第二章として、外国の旅行
者へ向けて口コミベースの生の声に注視しそれを広めていく戦略をとっていかなくてはなりません。
DMOだけでなく、博物館や美術館、展覧会や文化遺産など文化的な施設も、マーケティング戦略やそ
れを実装できる、財務にも精通した現場レベルのマネージャーが必要です。もちろん、全て英語で指示
を行い実施していくのは当然ですが。
元地方創生担当大臣として、皆さんからいかに日本が文化や歴史、遺産などの魅力を売り込んでいくべ
きか、など様々ご提言頂き心から感謝申し上げます。特に、いかに地方の隠された魅力、本格的かつ伝
統的なものを観光客の方に感じて貰えるか、これこそ日本の観光立国政策の次のステージです。この目
標へ到達するため、ホスピタリティマネジメントを勉強した学生たちを導いていくかがとても重要で
す。
日本には世界で最も長い歴史を誇る皇室があり、日本は不安定な東アジアの中で安定的かつ綿密に積み
上げられた民主主義国家であります。そして、米国から一番多くの軍人を受け入れており、日本こそ米
国の重要な同盟国です。そして、トップレベルの米国のホスピタリティマネジメントの研究成果やカリ
キュラムこそ、日本の少子高齢化問題に直面した地方経済を盛り上げるという国家の目標へ向けた原動
力であり、同盟を強化させることでしょう。
さて、日本の大学から来られた皆さんにも一つお話したいことがあります。もし、皆さんの大学で素晴
らしい観光学・プログラムを提供しているとすれば、本日の講演で様々思うことがあるでしょうし、ご
不満も感じることでしょう。しかし、皆さんにはその想いをもって、より良い将来のためにドラスティ
ックな転換を行う存在になって頂きたいです。明治維新、151年前に日本で何が起こったか、皆さんご
存知でしょう。現状のドラスティックな転換を導いてこそ個々人の変革へ確実につながると、その重要
性に我々は気づかされたのです。
日本人は皆、19世紀中期にペリー提督によって、世界から取り残されたものとして自ら外部と隔絶しよ
うとする姿勢を解かれたことを知っています。日本の観光学も外的なショック、つまりは第二の黒船を
必要としているように見えます。そうした中で、本日、勇敢にも21世紀の黒船とはどういうものかと興
味を示し、お越し頂いた日本の大学関係者の皆様に心から敬意を表します。このサミットは、観光、ホ
スピタリティの専門的な研究において先進国である米国から、貴重な考察をいただくことができる素晴
らしい機会だと思っています。
最後に、政府間調整や財政面でご尽力頂いた米国領事館商務部、米国商工会議所、文化庁の皆様をはじ
め本日を迎えるにあたりお力添えを頂いた全てのスタッフの皆様と、遠方米国よりお越し頂いた米国の
大学関係者の皆様、そして、お越し頂いたサミットの参加者の皆様に感謝申し上げます。本日お越し頂
いた皆様とともに、素晴らしい観光産業によって日本を更なる発展へ導いていく、決意をここに共有し
たいと思います。ともに頑張っていきましょう。
ご清聴ありがとうございました。